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アカ族のメメントモリ 〜先祖からの格言〜(285号)

カテゴリー: 今号のピックアップ | 2015.02.10 Tuesday

 

今号のピックアップコラムは
今号から新しく連載が始まった、
「アカ族のメメントモリ 〜先祖からの格言〜」の第一回目です。
筆者の村岸伝造さんは、
アカ族の村で生活し、アカ語とアカ族の死生観を研究中。
アカ族の死生観から、自分の生き方について考えさせられるかもしれません。





第1回 「天国で会えない」
Mq-behq gar maf mawr-a
ムベェ.ガァ:マ.モォー:ア
 (※[:]は高音、[.]は低音、無記号は中音を表す)

北タイの山岳民族の一つであるアカ族。
黒地に色鮮やかな刺繍をあつらった伝統衣装で有名です。
アカ族の老人と話していると、
不意に彼らの口から人生の真理のような格言が出て来ることがあります。
私は、これらの格言には、
アカ族の若者たちが置き忘れてきてしまった
深遠な人生の指針が秘められているのではないかと考え、
こうした格言の数々を
後生のアカ族のために遺しておきたいと思うに至りました。

このコラムでは、アカ族の子から子へ、
孫から孫へと伝わる、
いや、伝えたかったのに
何かが間違って現在伝えられていないアカ族の格言を、
毎回1つずつ紹介していきたいと思います。

アカ族の若者が何かのきっかけで
このコラムを見たときに、
「ああ、そういえば聞いたことがある」と
思い出してもらえるよう、
格言はアカ語アルファベットの原文を掲載してあります。
また、日本人がアカ語を正しく発音できるよう
カタカナ読みを併記し、
アカ語の声調を区別するために記号を付してあります
(アカ語はタイ語のような上がり下がりの声調ではなく、
音の高さで音節を区別する)。

冒頭の「天国で会えない」という言葉は、
例えば親戚にヤーバー(麻薬)の運び屋や売春婦、
犯罪者などが出て、
彼らの悪口を言っている人に対して、
「運び屋や売春をしたい人には、させておけばいい。
どうせ彼らとは、もう天国で会わないのだから」
という意味を込めて発せられる言葉です。

「ムベェ(天国)」とは、
アカ族の死生観のキーワードの一つです。
そこは荘厳な神の国のようなものではなく、
純然たる死後の世界。
自分の御先祖が集い合っている場所であり、
自分と一族が死後に向かう場所です。
百の家族があれば百の「ムベェ」があり、
生前の行いで枝分かれしたり一族同士が交わったり、
という不思議な世界です。

敬虔なアカ族は、
生前は御先祖の意思を胸に刻み、
意思に適う生き方をするよう努めます。
そうすれば死後は御先祖たちと「ムベェ」で再会し、
自分もいずれ自分の子孫をそこで迎えることになります。
しかし、本来の歩むべき道を踏み外してしまった人は、
死後御先祖の「ムベェ」に行くことはできず、
別の行き先となります。

上記の例で言えば、
運び屋や売春婦、泥棒や犯罪者たちの集う天国です。
あるいは、そこを「地獄」と呼ぶのかもしれませんが・・・。
「天国で会えない」「死後の行き先は別」。
これは一見冷淡なようにも見えますが、
ひいては「死ぬときは自分一人」、
「自分の死後の行き先を想定しながら現生を生きる」という、
ある意味では現世の人生を
非常に厳粛に捉えているとも言えます。
また、これは日本語の
「御先祖に顔向けできない」等の言い回しとも相通じるものがあり、
日本人には理解しやすい死生観であると思います。


 

 

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