チェンマイ発・ちょっとディープな北タイ日本語情報誌CHAO『ちゃ〜お』は毎月10日、25日に発行。本文へスキップ

<< アカ族のメメントモリ 〜先祖からの格言〜(285号) | 最新 | キセキレイ(285号)Bird Watching >>

癒しの音を奏でる ラーンナーの楽器(284号)

カテゴリー: 今号のピックアップ | 2015.02.11 Wednesday

 

今号のピックアップコラムは、
北タイに伝統楽器を紹介する、
「癒しの音を奏でる ラーンナーの楽器」。
執筆者は、沖縄出身のシンガー&三線奏者で
現在、チェンマイにてラーンナー楽器を学びながら、
ラーンナーの音楽を研究中の河原弥生さん。
ラーンナーの伝統的な楽器の紹介を
実際に学ぶ中での経験をもとに紹介してくれています。
コラムを読んで興味を持った方は
ぜひ実際の音を聞いてみてください。



第3回目  サロー2

チェンマイ大学のティティポン先生に連れられ、
サローのオーダーに行った日から5ヶ月。
手に取ったサローを弾こうと、覚束ない手で弓を握り、
サローの弦に弓をあてた。
思い切って引いてみると、意外や意外、
素敵な音が響き渡って喜んだのを憶えている。
心の中で「これはイケるぞ」と浮き足立っていたが、
音を変えようと違う弦に移ると・・・
何とも言えない耳障りな音が部屋中に響き渡ってしまった。
何と表現すれば良いか、
扉が上手く閉まらない蝶番の軋む音というか、
古い椅子に座って「ギーギー、ギシギシ」と鳴っている音というか、
とにかくストレスの溜まる音である。
何より、そんな音を自分が出しているかと思うと情けなかった。

サローは、日本の胡弓や中国の二胡に類似する北タイの擦弦楽器である。
胴の部分がココナッツ、サローの竿や糸巻き、
弓の竿の部分が紅木や黒檀、
チークウッドなどの堅い木で作られている。
日本本土では胴の表面に犬皮や猫皮、沖縄では蛇皮を張るが、
サローは板を張る。
弓にはナイロン(釣糸)や馬の尾の毛が使用されているが、
昔は女性の毛髪を使っていたのだそう。
サローの性質を少しでも理解することで、
楽器と向き合い、私の目指す音が出せればと願う。

ティティポン先生は、ラーンナー音楽の第一人者で、
チェンマイ大学で民族音楽学を教授している。
民族音楽の研究をする傍ら、
プロの音楽家として各国で演奏や講演するなど、
音楽界に貢献している。
また、ラーンナー音楽をベースとしながら現代音楽の創作も試みている。
そんな先生とのレッスンは非常に中身の濃いものである。
先生はよく、
サロー本体はボディであり、弓はスピリットだと言う。
サローは、体と心を使って演奏するが、
心が何処へ行っても、体はしっかりと地につけておきなさいという。
両方をうまくコントロールできると、
良い演奏に繋がっていくのだそう。
私の場合、レッスン当初は、
体も心もあっちこっちへ行きとんでもない事になっていた。
そうなると、前述した耳障りな音が炸裂し悲しくなってくる。
しかし先生は、基本練習を徹底してさせた。
ドードードードーソーソーソーソーを
何度も何度も繰り返し、
一緒に弾いてくれる。
先生に言われたこと、気付いたことをメモして
疑問は直ちに質問する。
レッスンが終了し次のレッスンまで一週間はある。
それまでひたすら、自宅で復習や予習に励むのである。
このような練習を繰り返し行っても、
中々なかなか定まったポジションが確立できない。
一生懸命左手の小指を伸ばそうとして左手が下がってきたり、
響きの良い音が出たと張り切ってそのポジションを覚えレッスンで披露するが、
それは肩に力が入って右手が上がっていたなど、散々であった。
しかし、時間が経つとある程度、
自分の癖が見えてくる。
いや、先生が毎回注意してくれるから分かることである。
最近では、ようやく耳障りな音から解放され、
短い曲ではあるが7曲程度、演奏できるようになった。
但し、演奏できるようになったのは
先生から頂いた楽譜をそのまま演奏することであって、
ラーンナーの演奏家は、
その殆どがインプロヴァイス(即興)を主としているため、
まだ演奏できたうちには入らない。
具体例を挙げると、
ティティポン先生は「Changsaton」という演奏グループのメンバーであるが、
ラーンナーの伝統音楽は場面によるが、
同じメロディを繰り返し何時間もかけて演奏することがある。
全て同じ演奏だと奏者も聴衆も飽きてしまうため、
装飾音を足したり、指をスライドさせ音の余韻を聴かせたりと、
あらゆるテクニックを披露する。
しかし、それでも同じメロディを何時間も演奏するのは厳しいものがある。
そこで、ラーンナー音楽を演奏する上での決まり事がある。
それは、4小節を1フレーズとし、
フレーズの最後の音は決して変えてはいけないが、
それ以外の音は変えても良いというものだ。
フレーズの最後の音がしっかりと合っていれば、
他の音を変えても支障がない。
クラッシックを学んできた私には驚くべきことであった。
なぜなら、これまで、楽譜を忠実に再現して
作曲家の意図や思いを汲んで演奏することに
重きを置いてきたからである。
ティティポン先生との出会いで、新たな音楽の楽しみ方を知った。



ティティポン先生の演奏は
https://www.youtube.com/watch?v=rG2nrLqQwig

コンテンポラリーダンスとのコラボレーション 
https://www.youtube.com/watch?v=rG2nrLqQwig

 

今号のピックアップ | Top