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特別寄稿 理学療法士としてタイで感じたこと

カテゴリー: 今号のピックアップ | 2015.04.25 Saturday

 



理学療法士としてタイで感じたこと


文・写真 保坂伸一
 青年海外協力隊としてチェンマイに来て、もうすぐ2年が経とうとしています。
 職場はチェンマイゲートとターペーゲートの間にあるタマパコーン高齢者社会福祉開発センターです。当施設はタイ国内に12箇所ある国立老人ホームのひとつで120人の社会的支援が必要な高齢者が入所しています。政府の補助金では不足し、タンブンで支えられています。
 私の仕事、理学療法士とは骨折や脳血管、神経障害など、様々な病気や障害の人々に対し、生活の質の維持、向上を目的にその人に応じた訓練や治療(運動療法、物理療法、日常生活動作指導)を行うものです。
 例えば、筋肉や関節の正しい使い方を促すことで痛みを軽減させたり、関節症などの障害予防を促したり、それを歩行や入浴、トイレ、食事、趣味などの日常生活の動作に生かしたりする。どうしたら自立して楽しく生活が可能か、家族の負担が減るか、福祉用具などの環境面や患者さんの性格も考えながら、あらゆる方法でアプローチを行っています。
 活動時間は月曜日から金曜日の朝8時半から夕方5時まで、施設の入所者や公営デイサービスの利用者、地域在宅患者へリハビリを主に行っています。また、日本の文化紹介を兼ねた活動や日本からのスタディーツアーのサポート、チェンマイの介護について考える介護研究会に参加しています。その他、タイのリハビリテーション隊員と日本の紹介を兼ねたSUKIYAKI体操(https://www.youtube.com/watch?v=yrMAhGUdgek)を作成し普及を勧めています。
 現在、タイでも日本と同様に 60歳以上の高齢者が増えており、東南アジア地域の開発途上国の中では最も高齢化が進んでいます。高齢者が7%以上を占める「高齢化社会」に突入しており、2024年には14%以上の「高齢社会」になると言われています。
 タイでは約8000人の理学療法士がいますが、人数は日本の10分の1ほどです。多くのセラピストは収入の多い首都圏や病院勤務を希望し、地方の福祉施設では人手不足が続いています。そのため、高齢化に対する取り組みのひとつとしてタイ各省庁より JICA(Japan International Cooperation Agency)へボランティア要請が挙がり着任しています。
 日本とのリハビリテーションの大きな違いの一つは患者さんが利用する頻度です。日本では一般的に骨折や脳血管障害で手術した患者さんは、その後リハビリを行うための病院で3〜6カ月までのリハビリを受けることができます。
 タイでは早い人で手術日、多くの方は1週間ほどで退院してしまいます。理由は金銭の負担が大きいからです。身体の回復期間に病院や訪問リハビリを受ける機会は少なく、1日中自宅で寝ていて動けなくなってしまう人も多いのです。
 介護保険制度がない事に加え、山岳地で病院に行く手段がない、お金が無い患者さんは退院後のリハビリを受ける頻度は少なくなってしまいます。
 また、リハビリの捉え方も大きく違います。病気になったことを運命、前世の行いのためと受け入れてしまいます。介護は昔の日本のように家族介護が主流ですが、親が病気になった後に無理して身体を動かすことはあまり希望しません。
なぜなら、リハビリもタムガーン(仕事)と考える人が多いからです。その中でリハビリを行うことは文化に逆行するとも言え、無理強いすることはできません。
 多くの高齢者も障害をもつようになると頑張ってリハビリをしようとしません。家族は本人が1人で出来ることでもすべて手伝ってあげるため、結果、体力は低下し、さらに介護の負担が増えてしまいます。痛みに対しても原因を解決するのではなく、薬を飲むことだけで対処してしまいます。(以下の会話文参照)
 実際に理学療法を実施し身体を動かすことで痛みが取れたり、楽に動けるようになる。このように患者さんや家族は実際に当事者として経験して、初めてリハビリの重要性を実感するのです。
 理学療法士としては何ともやりきれない思いがありますが、リハビリや介護の役割がきちんと理解されるまでには、まだまだ時間がかかるでしょう。
 現状では少ない機会の中でしっかりとした家族指導を行い、家族と一緒にリハビリをしていくことがタイにあった方法なのかもしれません。
 身体の状態が良くなった時の患者さんの笑顔はタイでも変わりません。さすが微笑みの国!! 本当に嬉しそうな笑顔にいつも癒されます。任期も残り少なくなりましたがタイの文化を尊重しつつ、数年後に僅かでも何かが残せるようにリハビリの良い部分を伝えながら、最後まで活動していきたいと思っています。

〜よくある日常会話〜…
私「おばあちゃん膝の痛みは治った?」
おばあちゃん「ちゃーお、完全に治ったよ!痛み止めの薬飲んだからね!」
私「う…うん、良かったね。」(痛みがとれただけで原因は何も解決してないよー)

筆者プロフィール
回復期病院(リハビリテーション病院)に勤務し脳血管障害、運動器障害を中心に理学療法を行う。その後、青年海外協力隊に参加。平成25年8月よりチェンマイへ着任。タマパコーン高齢者社会福祉開発センターで理学療法士としてボランティア活動を行っている。


 

 

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