チェンマイ発・ちょっとディープな北タイ日本語情報誌CHAO『ちゃ〜お』は毎月10日、25日に発行。本文へスキップ

<< チャイロハウチワドリ(298号)Bird Watching | 最新 | 豆腐みたいな? >>

可能性秘めたラーンナー音楽

カテゴリー: 今号のピックアップ | 2015.09.11 Friday

 


今号のピックアップコラムは、297号に引き続き、
北タイに伝統楽器を紹介する「癒しの音を奏でる ラーンナーの楽器」から。
執筆者は、沖縄出身のシンガー&三線奏者で
現在、チェンマイにてラーンナー楽器を学びながら、ラーンナー音楽を研究中の河原弥生さん。
今回はラーンナー伝統音楽を用いて社会に貢献する活動のお話です。

 前回に引き続き、女性刑務所で北タイの伝統楽器を教えている、クルー(先生)トムの活動を紹介する。クルーの依頼で私たちが演奏したことにも触れる。
「音楽療法 北タイ音楽室」という部屋に案内されて待っていたのは、40名程の受刑者だった。彼女たちは、クルートムの登場に胸躍らせていたが、クルーの後方に立っている見慣れない日本人をも笑顔で迎え入れてくれた。私たちが挨拶を済ませると、クルーはチューニング(調弦)を始めた。彼女たちが練習する、サロー(擦弦楽器)、スン(撥弦楽器)、タフォーン(打楽器)、クルイ(吹奏楽器)の4種類のうち、サローとスンは、クルーがひとつずつ手に取って、チューニングしていた。チューニングされた楽器が其々の手に渡ると、全員で音合わせ。ドーソードーソーを繰り返し、スケール(音階)でピッチ(音高)を確認。その後、全員で《ローイメーピン》を演奏したが、受刑者の中にはタイ語が分からない者もいるため、クルーは絶えず、ドレミを口ずさみメロディを知らせていた。演奏は何度も繰り返されたが、飽きのないよう、パートやソロで演奏することもあった。互いの音を聞ききながら助言できるよう、クルーが工夫しているのだ。計4曲、《ソーイ・ウィアンピン》《クラーブ・チェンマイ》《ムーハオ・チャオヌア》も同じように練習した。私も練習に参加したが、女性たちは皆、目が合うとニコッと笑ってくれる。こちらも自然と笑顔になる。彼女たちの屈託の無い笑顔や、休憩中の楽しげな様子を見て、一瞬ここがどこだか分からなくなってしまった。それほど、皆、表情が明るいのだ。
 何か視線を感じる・・・・・・クルートムだ。クルーの視線に応えるべく三線を取り出す私。その視線は友人へも注がれる。私たちは、沖縄の《安里屋ユンタ》を掻い摘んで説明し、囃子を皆にお願いした。1度練習します、といってお手本を見せた。では、ご一緒にと声を掛け、高らかに「ヒーヤッ」と叫ぶと「ハーイヤッ」と返ってきた。その反応の良さといったら、小気味よく、ついつい、何度も「ヒーヤッ」と投げてしまうほどであった。私が弾き歌い、友人が太鼓を軽快に打つと目を輝かせながら聞いてくれた。途中、調子に乗って「スイッ、スイッ」と付け足すと、そこにもうまく反応して、一緒に声を出してくれた。そして、喜納昌吉の《花》タイ語で《ドークマイハイクン》を彼女たちに歌ってもらった。
私は、クルートムが普段から、彼女たちの心をうまく掴み、内にひしめくストレスを発散させてあげていることに気が付いた。現に、受刑者の1人であるリンさんは、「ここでの生活が時々窮屈に感じるが、クルートムや皆と演奏すると開放感が得られる」と言っている。また、「北タイの伝統楽器を学ぶことで、自国の伝統文化を守ることにも繋がる」と言った。どこからどう見ても、私の目には純朴でハキハキとした明るい少女にしか見えなかった。しかし、そのあどけない顔から語られる内容に驚きを隠せなかった。彼女は23歳、6歳の子どもがいる。何より、血の気が引いたのは、終身刑というのだ。彼女もまた、北タイで問題視されている、家が貧しく、家族を養うために麻薬を売ってしまった一人なのである。入所して3年が経つと言うリンさんは、受刑者が着ている制服の色や袖のラインで罪の重さが分かると話した。彼女の袖には2本の赤ラインが引かれていた。あまりにもショックを受けていた私たちに、彼女はこう続けた。「クルートムは徳のある人、罪を犯し、精神的に不安定な私たちに、とても優しく、落ち着いた態度で教えてくれる。それがどんなに有難いことか」と。クルートムは、彼女たちのアイドル的存在でもあるそうだ。真面目で誠実な人柄だが、ときには面白いことを言って笑わせてくれるそうだ。
 あっという間に3時間が経った。私たちが、お礼を言って立ち去ろうとすると、何名かが近付いてきて、感想を述べてくれた。マイクを握って《ドークマイハイクン》を歌ったオーイさんは、「歌っているときはドキドキしたけど、楽しかったです」と恥ずかしそうに言った。中には、私たちの演奏を聞いて、着物をイメージしたという感想もあった。何はともあれ、ありがたい。最後の最後まで、私たちの側から離れようとしなかったリンさんは、ありったけの笑顔で、「今日は楽しかったです、ありがとう。来週も来てください」と言った。その言葉につられ、近くにいた受刑者からも「いつでも来てください」の言葉が寄せられた。クルートムも満足げにその様子を見守っていた。
 「音楽療法 北タイ音楽室」を背に、私はクルートムへ御礼を告げた。
クルートムの思いは確実に彼女たちに伝わっている。クルーの活動に同行させてもらい、音楽の力は偉大だ!と再確認した。

 

 

今号のピックアップ | Top