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ファランのロングステイ パート2 ▲蝓爾気鵑僚于颪

カテゴリー: 今号のピックアップ | 2016.04.25 Monday

 

今号のピックアップコラムはサミュエルス・圭子さんによる
不定期連載「ファランのロングステイ パート2」です。


▲蝓爾気鵑僚于颪


 異性との出合いが難しいといわれているチェンマイ。
70歳のイギリス人と恋に落ちたリー(77歳)の話をするには、
まず、一年前に亡くなったリーと30年連れ添った
奥さんクリスの話をしなければならない。

 2014年の8月、頭がくらくらして歩行困難になった
妻クリスに付き添って行ったラム病院での診断は末期癌で、
余命2ヶ月と言われた。
 それを聞いてもクリスは冷静だった。
治療は一切受けずに自然に死にたいと決心した。
医者は痛みを和らげる緩和処置として放射線治療を薦めたが、
クリスは拒否した。
クリスは医者に病状がどう変わっていくのか、熱心に聞いた。
自宅で6週間過ごし、最後の2週間は入院する計画を立て、
大事なことは全部その日のうちに決めた。

 家に帰ると夫リーの手をとって、クリスは言った。
「まだ意識がはっきりしている今のうちに言っておくけど、
泣き喚いたり悲しんだりするのはやめましょう、くよくよしないことよ」
 医者の言った通り、10月にクリスは亡くなった。
彼女の残した言葉通り、クリスの死には涙がなかった。
 
 私は聞かずにはいられなかった。
「いくらあきらめろと言われても、
普通の人は30年も連れ合った妻が亡くなれば、
ショックで何かにつけて思い出して泣くだろうと思うけど…」
 リーはニュースカメラマンとして、
厳しいプロの目で激戦地や自然災害の悲惨な状況を伝える報道番組を作ってきた。
世界中を飛び回って、悲惨な状況にある人間の姿を追い続けてきた人だ。
「悲惨な状況の中にいて、どうやって感情に流されずに撮影ができるの?」
「まずは自分の周りで起こっている事と自分の間に距離を置くことだね。
どんな映像が撮影できるか、どんなストーリーとして編集するかを考えているし、
そうやって目の前にある仕事に集中すると、感情に流されることはないね」
妻のクリスもまた、悲惨な人間模様が繰り返される
タイ国境のカンボジア難民キャンプで何年も働き、
バンコクではアメリカのテレビ局の仕事もしていた。
クリスの行動力、冷静な判断力は、
難民からも国連関係者からも、
「クリスの頼めばどうにかしてくれる」と信頼されていた。


 こんな仕事を一緒してきた夫婦だからこそ、
死という人生で一番大きな出来事を迎えても冷静でいられたのだろう。
「クリスが亡くなった直後はどうだった?」
「2ヶ月くらい友達や親戚を尋ねて、
ヨーロッパ、アメリカを旅してチェンマイに戻ってきた。
やっぱりチェンマイが好きなんだよ。
同じコンドーに今も住んでいるんだよ。」
「70過ぎて恋人ができるなんて、みんなうらやましがるでしょう」
「そうだよ、本人の僕が一番驚いているよ。
クリスが死んで、これからは一人で生きていくのが当たり前と思っていたし、
誰かに出会うなんて思ってもみなかったね」
 リーと話をしていると、日本の話がよく出る。
テレビ局から派遣されて何度も取材に行ったこと。
リーが暮しているコンドーは、日本人男性の一人暮しが多いことなど…。
 隣の部屋をちょっとのぞくと、空き部屋になっている。
「この部屋なんだけど、僕と同年輩らしい日本人男性が一人暮らしをしてたんだよ。
そう7年くらいになるかな。
暑くてドアを開けっ放しにしていたから、
寝るのも、食べるのも、すべて床の上で暮していたのが見えたよ、
椅子も机も何もない部屋なんだ。
言葉が通じないから何もわからなかったけど、
ここから引っ越してどうしているのかね」
「ここが一人暮らしの男たちが集まる店なんだよ」
 そうリーが紹介してくれた日本食を出す食べ物屋さんは、
時間外れなので、誰も人は入っていない。
「僕だってこの年でこんな気持ちになれるなんて思ってもいなかったよ。
だからここにくる男たちに言いたくなるんだよ。
あきらめるなって、人生は精一杯生きなきゃ」

 

 

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