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山岳民族グッズのニューウェーブ〜リス族篇〜

カテゴリー: 気まぐれ一発!コラム | 2007.05.21 Monday

 

気まぐれ25号山岳民族グッズ 今やすっかりファランに占領された感のあるパーイの町に行くたびに、いつも立ち寄る山岳民族グッズ屋さんがある。とりたてて面白いものがあるわけでもないのだが、店の中の椅子にまずは腰掛けて店主とよもやま話をするのが習慣になっている。ここの女主人は、私がずっと親代わりで面倒を見ていたリス族の子供たちの母親の友だちで、もうかれこれ十年以上も前から顔馴染みのリス族女性だ。ちゃらんぽらんに暮らすままに麻薬中毒の転落人生を辿っていった母親とは対照的に、こちらは真面目にこつこつ働いて、こうして自分の店を立派に構えることになった。両者の人生の明暗は、さしずめリス族版「アリとキリギリス」といったところか? ちなみにこのオバサンには日本人と結婚した娘がいて、自分でお金を貯めてひとりで日本に行ったこともあるというから大したものである。
 先日、改めてこの店の山岳民族グッズを検証してみたところ、前号のパロン族のハンディクラフトでご紹介したような複数の民族柄折衷デザインがいろいろと見つかった。パロン族の場合はその組み合わせがどことなくぎこちなく、そこがまたご愛嬌だったのだが、ここの場合は完全に商品としてこなれている。奥にあるガラスのショーケースをのぞくと、各民族の柄がテープ化した形で収められている。リス族、ラフ族、モン族のものはパーイ周辺から、ヤオ族のものはチェンラーイから買い付けているという。例えば、1メートルあたりリス族柄は40バーツ程度、ちょっと凝ったモン族やラフ族の刺繍模様は250バーツ程度の値段で取引されているらしい。
 本来、こうした各民族固有の柄は、それぞれの民族を識別するための表象、つまり民族アイデンティティの象徴でもあったはずだが、共同体の生活から切り離されてハンディクラフトとしてひとり歩きし始めると、その意味を失って単なるデザイン模様となってしまう。どの模様をどう使おうが、それは製作者の自由だから、順列組み合わせ的にさまざまなコラボレーションが生まれる。大袈裟にもったいぶって言えば、それまでの文化的意味付けが解体され、また新たな文化的形態が生まれるということになるのだろうが、要するに「キレイなら何だっていいじゃん」と割り切ってしまうわけである。赤、青、黄など原色のどぎつい組み合わせのリス族柄だけでもかなりヘビーなのに、さらに他の民族のこってりした模様が隣り合わせになったりすると、その装飾過剰状態に頭がクラクラしてくる。もちろん、これをキレイと思うか、トゥーマッチに感じるかは個人の好みの問題なのだが。ファランなどは「オー、ビューティフル!」とか言って、嬉しそうに買い求めていく。かくいう私も、まだ見たことがない組み合わせを見つけると、思わず手が伸びたりするからいけない。日本にいた頃は人一倍地味好みだったはずなのに、リス族と付き合ってからはど派手な原色模様にもあまり抵抗がなくなってきた。慣れとは恐ろしいものである。
 ファランのツーリストが多いパーイやメーホンソンの街では、路上にハンディクラフトの店を広げているリス族がよく目に付く。民族的性格の差なのだろうか、ラフ族やカレン族の物売りはまず見かけない。ちょっと昔まではこの手のグッズは仕上げが稚拙で、ほころびがあったり、歪んでいたり、おまけに手の汚れがついていたりしたものだが、最近はマスプロ化(?)が進んだせいか、以前より手馴れた作りになってきた。逆に言えば、どれも似たようなデザインで素朴な面白味がなくなってきた。
 そんなことを思いながら、メーホンソンのワット・ジョンカム境内で売っているリス族グッズを眺めていたら、これまでにない斬新なアイデアのバッグを発見した。光沢のある黒の布地にリス族衣装の襟元や袖の付け根に使う極細縞模様の素材をあしらったデザインがなかなか洒落ている。このリス族独特の縞模様はいろいろな端ぎれを約2mm幅に縫い合わせたもので、自分で作ると非常に手間がかかるし、人から買っても結構高くつくのだが、ここは古着からの流用で済ませて、時間と費用を節約している。縞模様部分は鮮やかな色だったものが褪せて、かえっていい味を醸し出している。新しい黒の布地とアンティックの縞模様の対比が冴えている。リス族衣装のエッセンスを凝縮したようなデザインだ。
 日頃からリス族を見慣れているものとしては、このバッグの柄を見ただけで、衣装の襟から背中にかけてのラインを想い起してしまう。じっと眺めていると、あたかもリス族の女性がこの場に立ち現れるような錯覚にとらわれるほどだ。問題は、この縞模様の古着を誰が身につけていたか? つまり、美少女か、オバチャンか、はたまたオバアチャンか?によって、こちらの心構えも変わってくる。思うだけなら自由なので、「これは美少女の汗が染み付いたバッグだぞ」と自らに言い聞かせて、ひとつ購入することにした。ブルセラ・マニアの気持ちが少しだけ解ったような気がした。これから毎日、この触り心地も滑らかな黒の布地部分を撫で撫でしてしまいそうで、我ながら心配だ。
 さて、このオリジナル・デザイン・バッグの考案者は誰なのだろう? 一見しただけでも相当なセンスと要領のよさを感じる。縫製仕上げをレベルアップして、いささか頼りない紐の部分を他の材質に変えるなどマイナーチェンジするだけで、ちゃんとした商品として通用しそうだ。尋ねてみると、目の前で日焼け止めの粉を顔に塗りたくっているオバチャン自身のアイデアだという。「これを作れるのはワタシだけよ」と誇らし気だ。もうひとつのオリジナル・バッグは持ち歩くのには勇気がいるが、ポップな独創性に溢れている。見たところはただのオバチャンでも、ひょっとして天才的民族グッズのイノベーター、リス族の山本寛斎のような人なのかもしれない。要領、手際のよさも並みではない。売れ筋の商品については、メーテンにいる姪に携帯電話で発注→商品はバスの運転手に預けて運搬→銀行振込で送金という近代的ビジネス・システムを構築している。
 あとで聞いたところによると、この日の朝一番で私が買ってから、立て続けに3人のファランが同じデザインのバッグを買っていったそうだ。この分だと世界中にリス族デザインが溢れる日は近い・・・こともないか。

(One-Two Chiangmai 25号掲載)

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