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美少女との遭遇

カテゴリー: 気まぐれ一発!コラム | 2007.05.21 Monday

 

気まぐれ30号 美少女との遭遇 自分で車を運転するようになってから、どんな遠くの山奥へでかけても、旅をしているという気がしない。それは目的地への単なる移動でしかない。時間を効率的に使えるようになった反面、面白い出会いも滅多になくなってしまった。山のなかを歩いているときや、ソンテーオを乗り継いで気ままな旅をしていたときは、無駄に思える時間のなかでいろいろな出会いがあったものだ。前回に続いて、そんな旅の途上の出来事を淡い記憶のなかから呼び覚ましてみよう。
 現在、チェンマイ県の北の端にある田舎町タートンから中国国民党の村ドイ・メーサロンへと抜ける峠道は快適なハイウェイの観光ルートになっているが、15年ほど前は未舗装のひどい埃道だった。タートンを出発したときにはほぼ満員状態だったソンテーオも途中でひとりふたりと抜けていき、急坂にさしかかる村のあたりで乗客は私ひとりになってしまった。「ここから先はガソリン代がかかるから、ひとりでは行かないよ」と意地悪っぽく運転手が言う。こんな寂しいところで降ろされても困るので、やむなく言われるままに追加料金を払う。その代わり、ちょっと手前の地点で料金交渉の折り合いがつかなかったリス族の親子を乗せてあげなさい、と条件を出した。片言のリス語で乗り込んできたふたりと何とか会話らしきやり取りをしているうちに、自然な成り行きで「村に遊びに来い」ということになった。急ぐ旅ではなかったし、何より娘さんがとびきり可愛かったのでホイホイと誘いにのることにした。メーサロンから5kmほど手前の地点で途中下車して、人がやっと通れるぐらいの細い尾根道をのこのこついて行く。15分ほどで山の斜面にあるH村に着いた。当時はまだ電気も水道もトイレもないような素朴な雰囲気の村だった。
 話を聞いてみると親子だと思っていたのは勘違いで、叔父と姪の間柄だった。アミマという名前の(リス族の長女は皆アミマと呼ばれるのだが)この13歳の女の子は両親に先立たれ、叔父さんに引き取られてこの村で暮らしているとのことだった。複雑な生い立ちのはずなのに、性格はとても素直で優しい子だとすぐわかった。今で言えば、「癒し系」美少女といったところか。質素な村のなかで、愛くるしい表情がひときわ魅力的に輝いてみえた。あとで山岳民族に詳しい情報筋から聞いたところによると、一部山岳民族美少女ファン(?)のあいだでは注目のアイドル的存在だったらしい。彼らにしてみれば、私は勝手にアイドルの実家に侵入したけしからん奴だということになる。今となっては時効だから、そこはお許し願いたい。
 アミマの叔父はなかなかの働き者で、朝の7時にはもう畑に出ている。アミマ自身も小さな身体に似合わず、パワフルな働きぶりだ。強烈な陽射しのなかでの野良仕事は想像以上に体力を消耗する。慣れない手つきで鍬を握る私はといえば、「もうダメ〜」とつい弱音も吐きたくなるが、隣りで黙々と健気に耕しているアミマを横目でチラチラ見ては、気を取り直して頑張る。斜面では皆が横一線になって耕していくので、ひとりだけ遅れることは許されない。
快い疲労のあとで昼飯となる。持参のリス米におかずはピーナッツの塩味炒め。そこら辺に生えている草で食べられるものを摘んできて、塩と唐辛子をまぶしてライムをひと絞りすれば、リス族サラダの出来上がり。これが結構いけるんだな。こんなシンプルなおかずでもリス米はタイ米より味わいがあって、ついご飯が進んでしまう。喉が渇けば、下の水場からアミマが汲んできて「はい、どうぞ」と差し出してくれる。何たる幸せなひととき・・・。
 その後、この村を訪ねると、こんな野良仕事の真似事をいつも3、4日はやっていた。年に2回ぐらいは遊びに行っていただろうか。以前にこのコラムでも少し触れたように焼畑の作業を一緒にしたこともあった。そして、3年目のときだった。いつものように山道をソンテーオに揺られてH村の分岐点で下車するときに、同乗していた馴染みの村人が近くに来て教えてくれた。「今日はアミマの結婚式だよ」と。半信半疑で彼女の家に行くと、果たして式の準備中でたくさんの村人が出入りしていた。「何でもっと早く来なかったんだ。お前が来るのが遅かったから、変な若造とくっついちゃったじゃないか!」結婚相手が気に入らない叔父は怒ってふて寝していた。男の家の神様が良くないからダメだと言っていたが、15歳での早すぎる結婚で貴重な労働力が失われるのがショックだったのか? あるいは、本気で金持ち日本人(?)の私との結婚をお膳立てして結納金をガッポリもらうつもりだったのか? もちろん、私は妹か娘のような好意はあっても、その気はなかったのだが。今、改めて振り返れば、もったいないことをしたようにも思う。
 結婚式に村に入った者は、しばらく村から出てはいけない決まりがあるとのことで、居場所のない私は図々しく叔父の家にとどまることにした。いつのまにかアミマの親族の一員になったみたいな気分だった。やがて角隠しを思わせる黒い布を被ったアミマと新郎が現れ、シャーマンのもとで厳かに儀式がとり行われた。宴会に入ると、豚肉料理が出席者にふるまわれ、新婦自らかいがいしく働いている。いい嫁さんだな、と思った。晩になると大粒のヒョウが降り、夜半には大雨に変わった。宴は延々と続いていた。
 翌朝、録音したリス族の歌のテープを寝床できいていると、「私にも聴かせて」と人妻となったアミマが照れ臭そうに顔を近づけてきた。彼女なりに気を利かせて、挨拶をしに来たのだろう。恋人とは違った親近感がその場に漂い、こちらも年甲斐もなくドギマギしてしまった。
 それからは、さすがに毎年訪問することはやめたが、数年ごとに機会があればこの村に立ち寄るようにしている。以前のように村に泊まったり、野良仕事をすることもないが、アミマへの挨拶だけは忘れない。そのたびにいつも照れ臭そうに笑いかけてくれるのだが。前回、行ったときは、かつての美少女も既に4児の母となっていた。

(One-Two Chiangmai 30号掲載)

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