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山を下りる美少女たち

カテゴリー: 気まぐれ一発!コラム | 2007.05.21 Monday

 

気まぐれ31号 山を降りる美少女たち かつては美少女に会いに山へ入っていった。というと語弊があるので、山岳民族の村へ行くとよく美少女と出会ったものだ、としておこう。それが、最近では美少女のほうが山から街へ下りてくるようになった。苦労せずとも、身近なところで美少女に会えるようになったわけだが、これは良いことなのか、悪いことなのか? 単純に喜ぶわけにはいかない。
 この背景には、村での経済環境の急激な変化があることは確かだろう。それぞれの民族によって事情は違うので一概には言えないが、私がこれまで否応なしに15年ほどコンスタントに付き合ってきたリス族に限れば、その変わり様は一目瞭然である。
 リス族は山岳民族のなかでは比較的金を持っていてプライドも高いほうなので、若い女性が安易に街に働き出て行くようなことは少なかった。ところが、この10年ほどで暗黙の了解としてあったはずのこうした民族的規律がなし崩し的に形骸化してしまった。従来、リス族は現金収入の多くをケシ栽培によるアヘンの売買に頼っていたのが実情だったが、栽培が実質的に不可能になってからは、覚醒剤の運び屋や密売などのリスクを犯さなければ今までの生活レベルを維持することは難しくなっていた。それも、昨今は取締りが厳しくなって長く取引に関わっていれば、遅かれ早かれ捕まって重罪に処せられるのがオチ。懲役25年とかになれば、家族崩壊してしまうのは必然である。だからと言って、農業だけをやっていれば何とか食ってはいけるが、満足な現金収入には程遠い。しかも、交通の発達などによって物質的欲望だけはどんどん刺激され続ける状況にある。こうした図式はひと昔前のタイの農村部にもよくみられたものだが、山岳民族の村ではより短期の間にドラスティックなかたちとなって現れている。中国系との混血の影響もあってか、もともと金銭にはシビアなリス族が陥ったこのジレンマは、容易には解決できないように思える。
 一家が途方に暮れていると、暗い家の中で可愛い年頃の娘が明るく輝いていることに気付く。親から促すでもなく、娘から言い出すでもなく、「街へ働きに行ったら…」ということになる。隣の○○ちゃんもチェンマイに行ってから急に羽振りが良くなったし…。最初はレストランの給仕というはずだったのが、お友達から誘われて「まあ、いいか」とタイマッサージ、バービア、カラオケへと流れていく。「赤信号、皆で渡れば怖くない!」は日本人もリス族も変わりない。
 こうした現象がより顕著になってきたのは5、6年前、あるいはもうちょっと前からだったろうか。ターペー門近辺の馬鹿っぽいファランがたむろしているようなバービアに付き合いでイヤイヤ(本当にイヤイヤですよ)入ったときなど、いきなりカウンターの女の子から指差して笑われることがあった。顔に何かがついているわけじゃあるまいし…と訊いてみると、私のことを知っているという。ずっと昔にメーホンソンの山村ソッポンのバス停近辺でよく私のことを見かけたと証言する。当時、その近くのリス族の村でブラブラしていたのは確かだ。でも、彼女の家はそこからさらに10km以上も山を上っていったG村である。意外に思ったが、冷静に考えればそれも納得がいく。私にとって彼女はあの辺りにいた多数のリス族のワン・オブ・ゼムでしかないが、あのバス停を利用していた5つか6つの村の皆さんは「変なガイジン」として私のことを知っていたのだ。今から考えると、まったく冷や汗ものである。
 その後、リス族美少女(なかには美少女じゃない娘もいるが、総称としてそう呼ばせていただく)の街への流入は加速度的な勢いで増えていく。芋蔓式で美少女が美少女を呼んでくる。バービアでもタイマッサージでもリス族と遭遇する確立は飛躍的に高まった。他の民族はそれほどでもないのに、リス族の突出ぶりはちょっと異常でさえあった。上記のようなことがあっても、ちょっとやそっとでは驚かなくなった。慣れっこになったというか、免疫ができてしまったというか。
 だが、先日、その免疫も危うく効かなくなってしまうようなことがあった。
 もちろん妻には内緒だが、ときたま(ときどきかな?)気晴らしにPというカラオケに行くことがある。ここは連れ出し不可の比較的健全な(何が健全だかよくわからないが、とにかくここを強調したい)カラオケで、女の子は自称R大学、自称Cカレッジなどの女子大生アルバイトが多く、素人っぽさを売り物にしている。この国では素人とセミプロの境界はあってなきが如しということは百も承知で、いい年して鼻の下を長くしたオジサンがひと時の幻想に酔い痴れるところである。
 この日、指名したMちゃんは人懐っこい笑顔が実によろしい。すぐに打ち解けた雰囲気になってしまう。「やっぱり女は愛嬌だよなぁ」とオジサンは早くも悪酔いに突入。「出身はどこ?」とお決まりの会話導入に「ドイ・メーサロンって知ってる?」とくれば「もちろん、知ってる、知ってるよぉ」と無理やりテンションを高めていく。「じゃあ、1曲いくわね」と歌い始めたテレサ・テンの中国語の名曲。これがもういいんだなぁ。中国語の発音が妙にそそる玄人はだしの歌いっぷりにウットリしてしまう。自分の歌はさておいて、何でこんな下手くそな歌を聴かされて高いドリンク代を払わなければいけないのか、と思うような女の子が多いなかで、このMちゃんの歌唱力には喜んで◎をつけよう。「さすが、国民党の村メーサロンだね。もちろん、ご両親は中国人?」とマニュアル通りの質問に「母親は中国人だけど、父親はリス族よ。中国語はメーサイの学校でちょっと勉強したけど、ずっと住んでいたのはリス族の村なの」と答えたあたりから、風向きが変わって、ひょっとしてという気がしてきた。「リス族の村って、まさかH村じゃ…」「そうよ…もしかして、ワタシ小さいときにあなたを村で見かけたことがあるかも」 
 さらに追求してみると、要するにMちゃんは前号のエピソード(リス族の村で一緒に野良仕事)でご紹介した美少女アミマと同じ村で暮らしていたのだ。15年も前の話だから、当時Mちゃんはまだ7つか8つだったことになる。話はそれだけでない。
「あのアミマなら、もちろんよく知っているわ。旦那はとてもいい人で、今は村長をしているの。私は彼の弟と結婚したんだけど、これがもう最悪。子供ふたりを生んでアミマと同じ家で暮らしていたの。でも、あまり性格が悪いんで別れちゃった」 
 つまり、このMちゃんはあのアミマの義理の妹だということになる。そう判ると、それまで馴れ馴れしく肩に回していた手が気まずくなって、思わず姿勢を正してしまった。H村の平和な光景とこのカラオケ・ルームとのギャップがどうしても埋まらない。確かに、考えようによってはまさに最高のVIPルームなのかもしれないが。その日は、ひと時の幻想も霧のように失せて、妙に醒めた気分で酔い痴れるしかなかった。

(One-Two Chiangmai 31号掲載)

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