チェンマイ発・ちょっとディープな北タイ日本語情報誌CHAO『ちゃ〜お』は毎月10日、25日に発行。本文へスキップ

<< 山を下りる美少女たち | 最新 | キノコの季節がやって来た >>

リス族の国際結婚

カテゴリー: 気まぐれ一発!コラム | 2007.05.21 Monday

 

気まぐれ32号 リス族の国際結婚 山から街へと出稼ぎに来るリス族が増えている。といっても小学校もろくに出ていないか、せいぜい中学3年生程度の低学歴の彼女たちがいざ職を探すとなると、必然的に働き口は限られてくる。その代表的職場のひとつがタイ・マッサージ店である。ここならちょっと訓練すれば、学歴に関係なくまあまあの収入を稼ぐことができる。これまでは村人レベルタイバツイチ女性の就職口といった感があったが、このところリス族乙女の進出が目立っている。たいていは友だちを頼って行くので、数人の仲間と一緒に働いている場合が多い。極端なケースでは、半分以上がリス族なんてところもあったりして・・・。
 先日、日本人にはあまり知られていない某マッサージ店に行った。ガッシリした体型のいかついオバサンが登場するものと覚悟していたら、実際に現れたのは実に愛くるしい女の子だった。話してみると、タイ語の発音が少しおかしい。「リス族でしょ? 」と訊いてみると当たり! だった。ここまではよくあるパターンだ。さらに話を聞いていくうちに、ひょっとしてという気がしていた。それは彼女も同じらしい。
「先月、アーケードのバス・ステーションであなたのことを見かけたわ」と切り出した。やっぱり、そうだった。私はこの10年来親代わりのようなことをしているリス族の「娘」にアーケードに呼び出された際、先にバスに乗っていた彼女を見ている。人目を引くような魅力的な雰囲気があった。そのとき「娘」の説明で、例の問題の女性だと知った。問題というのは、私があるNGOを通じて支援しているメーホンソン県パーンマパー郡の小学校の校長先生から耳にしたことだった。つまり、「学校管轄内のリス族NP村の若い女性が日本人と結婚して日本に住んでいたが、旦那との喧嘩が警察沙汰になってタイに逃げ帰ってきた」という話である。こちらの新聞にも取り上げられて、地元でも問題になったという。どうせ金目当てで結婚して、嫌になったから逃げてきたんだろうと思っていたが、彼女の説明を聞いて、むしろ同情すべき状況だったことが判った。
「日本人の彼と初めて会ったのは15歳の頃だった。それから毎年遊びに来て親しくなって、17歳のときに村で結婚式を挙げたの。たくさんお金をもらったんだろうって? それが全然なの。リス族の相場より少ないぐらいよ」
 それから弟も連れて、彼の実家のある福島は会津若松まで行き、そこで1年半間暮らしたという。1年半にしては、なかなか自然な日本語を話す。
「結婚して一緒に暮らしてみたら、彼は怒りっぽく、意地悪な性格だと判ったの。ときどき暴力的にもなるし・・・。でも、日本にいる時は相手に従うしかないとガマンしてたんだけど、決定的なことがあったの。
 ある晩、カンシャクを起こした彼は、私を外に追い出し、家の中に入れてくれない。5月のまだ肌寒い頃だったのに、布団もなしにいずくまって庭で夜を明かしたわ。朝になってトイレを使おうと家の中に入ろうとしたら、まだ許していないぞ! って言われて・・・」
 まったくヒドイ日本人がいたものである。弟も同じような目に何度か遭っているという。さすがに虐待に耐えかねて、ひとりで逃げ出すことを決意。東京のタイ大使館に逃げ込んで窮状を素直に訴えた。事態を重く見た大使館は自治体側と連絡を取り協議したところ、姉弟とも帰国させた方がよいとの結論になった。帰りの飛行機代は自治体が負担してくれたそうだ。本当に溜め息が出るような話である。
「こうして結婚は大失敗。父は麻薬の回し打ちでエイズに感染して死んじゃったし、母も父からエイズを移されて・・・。私がお金を稼ぐしかないから、こうやってマッサージなんかしてるんだけど。私の人生って何なの? もう自殺したいくらいよ」
 可愛い顔をしていても根性が座っている彼女が自殺することはおそらくないだろう。
 何やかんや言っても、山岳民族は基礎的な生命力が強いように思う。
 最近、NP村にいた彼女の家族は、かつて私が暮らしていたNT村に移ってきた。NT村では、やはり日本人と結婚したリス族女性が4、5人はいるという。西洋人と結婚した人も数人いるらしい。私が滞在していた頃は日本人の姿などほとんど見なかったのに、どうしたことだろう。道路状況が格段によくなって、国道近くにあるこの村までやって来る人が増えたことは確かだが、それがすぐ結婚に結びつくわけではあるまい。近くの見晴台でハンディクラフトを売っていた女性が日本人観光客に見初められたケースのようにガイドが仲介役を務めている可能性も高い。あるいは、裏サイトで各村の美少女が写真入りで紹介されていて、その情報をもとに「この女の子いる?」なんて訪ねてくる日本人も出没していると村人から聞いた。これは、かなり気持ち悪い。いずれにせよ、メーホンソン近辺のリス族の村では、国際結婚は日常茶飯事になっているらしい。
 リス族の女性側にも変化が起きている。以前は新年祭に遊びに来た男性の中から恋人候補を見つけたり、同じ村の中に好きな人が出来たりしてカップルがセイリツするのが通常のパターンだった。ところが、近頃の若い女性に「理想の結婚相手は?」と訊いてみると、「リス族の男はイヤ!」という答えが返ってくることが多い。お金も無いのに酒浸りでトランプ賭博ウツツをぬかしているリス族よりは、多少ジジ臭くても、顔が不細工でも、金持ちの日本人や西洋人の方がいいというのだ。あまりに短絡的、皮相的な結婚観だが、彼女達の人生経験、周囲の環境からすると、それも仕方ないかな、という気にもなってくる。
 前回、NT村を久しぶりに訪れたとき、ちいさいときからよく知っているリス族女性と再会した。実は彼女も日本人結婚組みで、優しい旦那と日本で暮らしていたが、昼間のアパートで子供と二人だけでポツンといる生活に耐えられずに山に舞い戻ってしまった。以降、年に数回、日本人の旦那が山で暮らす妻子を訪ねる結婚生活が続いている。
 彼女は山岳民族の村では近代的な個は確立していない。それがいきなり、集落や家族といった周りとの関係を断ち切って、個として都会や異国のなかに放り込まれてしまえば、おかしくなるに決まっている。なかにはうまくやっているカップルもいるかもしれないが、それなりの努力と苦労を重ねて来たはずだ。
 こうしたリス族女性たちの姿を見ていると、「やはり野に置けレンゲ草」という言葉を唱えたくなってくる。
 さて、レンゲ草を摘むのはいったい誰なのだろう?

(One-Two Chiangmai 32号掲載)

気まぐれ一発!コラム 記事タイトル一覧へ

 

気まぐれ一発!コラム | Top