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キノコの季節がやって来た

カテゴリー: 気まぐれ一発!コラム | 2007.05.21 Monday

 

気まぐれ34号 きのこの季節がやってきた タイの雨季は長い。また雨か…と空を見上げては、ため息をついている人も多いだろうが、私はそれなりに好きな季節である。都会にいても田舎にいても、カサカサの乾季の間はずっと辛抱していた植物が日を追うごとに元気になっていく様子がありありと見て取れる。山焼きで悲惨なまでの状態に痛めつけられた森のなかでも、おっとどっこいタケノコやキノコが頭を出し始めている。自然の旺盛な生命力には脱帽するしかない。
 今年は野生キノコ・ファンにして中毒患者を自認する私にとって、幸先のいいスタートを切った。雨季入りの頃に出てくる、世にも不思議なまん丸キノコ=ヘット・トープがいつになく豊作だったからだ。メーリムに住む妻のおばさんはキノコ採り歴がかれこれ40年近くになるが、今年ほどたくさん採れた年はちょっと記憶にないと言う。しかも、いつもとは違うところでみつかったことが大いに話題になったそうだ。
 その場所は、ひょんなことから発見された。そろそろ雨季に入ろうかという5月の半ば頃、近所に住んでいるある村人が川向こうのサンサーイ地区の丘陵地帯へ入っていった。牛の飼料にする草を刈ろうとしたところ、足元に何か丸いものが転がっていることに気付いた。よく見れば、あのヘット・トープではないか。ほれ、そこにも、あそこにも…となれば、それからは草刈りなんかそっちのけで、キノコを探し回ったことは言うまでもない。木の枝で土のなかを堀り起こすだけでコロコロと出てくる。ほどなくして、もう持ちきれないほどのキノコの大収穫となった。
 村に帰って家人に状況を説明すると、たちまちのうちに噂は広まり、村中はその話で持ちきりになった。なにしろ、このヘット・トープは自生のキノコのなかでもとくに高値で売れるのだ。「そういえば、あの辺りは季節の変わり目にヒョウがたくさん降ったからな」 村でも物知りの爺さんが呟いた。ヒョウが降ったところにヘット・トープがたくさん生える、と村人の多くは信じて疑わない。ここまで書いてきて、何か昔話のなかにでも迷い込んだ気になってしまったが、近代的に見えるチェンマイの街を一歩出れば、こんな話が妙に説得力を持つコン・ムアンの世界が広がっている。透明なヒョウが溶けて一夜明ければ丸いキノコに変わっている…この不思議な菌糸類にふさわしい、なかなか洒落たイメージである。もちろん、一夜にしてということはあり得ないが、科学的に調べてみれば、何らかの根拠があるかもしれない。単なる迷信、お伽噺と片付ける態度は面白くないように思うのだが。
 さて、その翌日。農作業を休んだ村人を乗せたピックアップ・トラックが何台も、噂のサンサーイの丘へと向かっていった。現地に到着すると、村人たちは一斉に丘の斜面をほじくり始めた。果たして、発見者の言っていたことは本当だった。前述のおばさんは午前中だけで10リットルのヘット・トープを集めて大満足で切り上げたが、午後までかかって30リットルもの収穫をあげたものもいたという。キノコの噂なら千里はともかく十里ぐらいは軽く走るとみえて、数日もたたないうちに周辺の村々からこのキノコのニューフロンティアの地にたくさんの人たちが集まってきた。なかにはサンカムペーンから駆け付けた人もいたときく。こうなると、ゴールド・ラッシュならぬヘット・ラッシュである。もとよりメーリム、サンサーイ近辺のヘット・トープは味に定評があり、値段も高い。ガソリン代を払ってでも、来る価値は十分にあるのだろう。他の地域では、チェンダオ方面やランプーン県のリー方面でもかなりたくさん採れたようだが、味の点ではもうひとつ物足りない。土壌などの生育環境によって、微妙な差が出てくるものらしい。いずれにせよ、この豊作のおかげで市場でも例年の半値ぐらいで買うことができ、食卓で大いに楽しませてもらった。
 どうやら、今年はキノコの当たり年なのかもしれない。先日、チェンダオ奥のミャンマー国境に近いリス族の村にさしかかったとき、道端でたくさんのヘット・コーンを売っている光景に出くわした。味だけから言えば、ヘット・トープ以上に旨いキノコである。栽培ものにはない上品な味わいと歯応えがたまらない。そう感心していたのは私だけかと思っていたら、その後、バンコクの情報紙でも2度ほどこのキノコに触れたコラムを目にした。よほど日本人受けのするキノコなのだろう。街なかの市場で見かけることは少ないのだが、都会のタイ人でも知っている人はいるようで、この日も高級車から降りてきた金持ち風の一行が先客の私をまったく無視して、残っていたキノコを全部かっさらっていってしまった。辛うじてひと山だけおこぼれに預かることができたが、中毒患者としてはそりゃあ面白いわけがない。だが、そんなに悲観することもなかった。慌てる乞食はもらいが少ないとはよく言ったもので、その数キロ先にあるラフ族の村ではさらに大量のヘット・コーンが待ち受けていた。しかも、ラフ族の控えめな性格を反映したものか、売値はリス族の半額である。嬉々として「それ全部ちょうだい!」と言ったところ、その隣の出店の主がいかにも恨めしそうな顔をしてこちらを眺めている。「わかったよ。そっちも全部ね」とボランティア的精神を発揮してつい大量購入してしまった。家に帰ってから芯にこびりついている土を落とすのがひと苦労だったが、気合を入れて料理に取り掛かった。ヘット・コーンを鍋に入れ、食通の友人からもらった小豆島産の天然醸造二年熟成醤油とダシで味を調え、純もち米本格仕込み三河みりんをたらして、仕上げにフリーズドドライの柚子をふりかければ、贅沢この上ないお吸い物となった。
 それがあまりに旨かったせいか、1週間もたたないうちに早くも禁断症状が出てきた。どうしてもまたヘット・コーンが食べたくなった。気がつけば一路ミャンマー国境へと車を走らせていた。たかがキノコを求めてそんな遠くまでわざわざ行く馬鹿がいるかいな、と内心呆れつつも結局は馬鹿に成りきって百数十kmの長距離ドライブを敢行。それなのに、肝心のキノコが売っていない!? お目当ての露店には大きな胡瓜が間抜けな感じで並べてあるだけだ。前回で採り尽くしてしまったので、来月にならないと出てこないのだとか。スーパーじゃあるまいし、いつでもあると思っていたのが甘かった。野生のキノコなんだから、一期一会の気持ちで臨まなければ、としんみり反省した次第。それでも手ぶらで帰るのは悔しいので、あちこちの村を探し回ったあげく、ようやく夕暮れ近くになってヘット・ハーやヘット・ロムを売っている出店をみつけた。「ひと山20バーツだけど、3つまとめて40バーツで持ってってよ」と商売上手なおばさん。やっぱりここは閉店時間30分前のスーパーみたいだな、と思った。

(One-Two Chiangmai 34号掲載)

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