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孤独な男は責任を持てない

カテゴリー: 気まぐれ一発!コラム | 2007.05.21 Monday

 

気まぐれ45号 孤独な男は責任をもてない お酒はやっぱり気の合った仲間と楽しく飲むに越したことはないが、ときにはひとりで一杯やりたいときもある。ことに私のような偏屈者は、ひとりぼっちでも一向に退屈することはない。あえて他人と会話をしないでも、自分の妄想を相手にさながらメビウスの輪のようなお付き合いをしていればよい。
 ただ、問題は場所である。シーンとしている店でぽつねんとして杯を傾けるのはいかにも淋しい。かといって、あまり賑やかに盛り上がっているところも避けたい。適度にガヤガヤしている店のカウンターあたりに座って、チビチビやるのがちょうどよろしい。あるいは他の客と相席になっても、気にせずにほろ酔い加減で新聞が読めるような一杯飲み屋とか。もったいぶって言えば、宴の中の孤独が味わえるようなところがいい。日本ならそんな店を探すのはわけないが、多種多様な飲食店が氾濫している観光都市チェンマイでも、いざひとりでお酒を飲もうとすると、さてどこに行ったらいいものか?と迷ってしまう。
 ちゃんとしたレストランに入ってタイ料理を何品か注文しても持て余すのがおちだし、ぶっかけ飯の安食堂ではビール1本空けたら出ないといけないような雰囲気だ。不良西洋人向けビアバーだと長居はできても気分が滅入るし、呼んでもいない女性が近づいてきてドリンクをせびるのが煩わしい。自称女子大生がいるカラオケではカワイコちゃんが隣に座った途端に、孤独を求める心とは裏腹につい肩に手をまわさざるを得ない。歌いたくもない30年以上前の化石のような歌謡曲をひとり唸って、高いお金を払うのはどう考えても賢明ではない。試行錯誤の末にようやく辿りついたのが、ぐるりと囲んだカウンターのなかに女性がいて周囲に腰掛けた男性にお酒をついでくれるような道路脇のお店である。
 この類のお店は「ラーン・ラオ・コン」と呼ばれる。コンはお酒を量る単位で、簡単に言えばお酒の量り売りをする飲み屋のことである。昔は夕暮れ時になると道端の小汚いテーブルで男たちが酒を飲む風景がよく見られたが、その進化バージョンと推測されるこの円形(正確には8角形だったりする)カウンター・スタイルがチェンマイに登場したのはこの数年のことだと思う。なかにいる女性は、やはり自称苦学生や勤労者だったりするのだが、カラオケの場合より素朴で田舎っぽい娘が多いように見える。私がひいきにしている店はアルバイト感覚で働く女の子が大半のためか、入れ替わりが頻繁である。それでも常に一定の水準を維持しているのは、気の強いママさんが率先して巨乳を誇示している賜物か? 彼女が目を光らせているので、従業員もキビキビとセクシーに振舞わなければならない。所詮、商売向けポーズとわかってはいても、バービアのだらしないお色気よりずい分マシである。
 いったいここのどこが孤独なの?とお叱りの声が聞こえるようだが、冷静に眺めればこれほど孤独な状況はないはずだ。なるほど妙齢のセクシーレディを目の前にしてはいても、客とその女性との間にはカウンターという境界が確固として存在する。目と鼻の先にかくも美しい花園があるのに、花を摘むことはもちろん、そのなかに入ることさえ許されない。たった50cmの距離が例えようもなく遠い。かつてのベルリンの壁に勝るとも劣らない悲劇がここにある。
カウンター周囲の客を観察すると、見るからにもてそうもないタイ人男性諸君が壁にへばりつくように飲み続けている。頭の禿げ上がった私としても、「お互いつらいものがあるよなぁ」と妙な連帯感を感じないわけにはいかない。現実世界において、彼らがこのような美女たちとデートする機会はまずないだろう。それが嘘でも何でもこの場所では擬似的デート空間がとにかく成立する。しかも激安料金だから、いつ行っても席がほとんど埋まっているわけだ。ちなみにタイ・ウイスキー1コンのお値段は15バーツ、100パイパーでも25バーツ、つまみもナッツの19バーツからといった具合で、200バーツも使えばもう酩酊状態である。
 さて、ときは2月14日のバレンタイン・デー。タイ人女性にとっては何より重要な日であることは言うまでもない。過去の苦い経験から、何はさておいてもこの日に愛する女性をテイクケアしなければいけないことは十分承知済みだ。もちろん、最愛の妻には心からのプレゼントを贈り、レストランで一家団欒の和やかな夕食をとった。その後、用事があった私は妻子を先に帰してから、用事をすぐに済ませるはずがなく、いつもの店に密かな計画通り来てしまった。女の子たちは皆さん、愛情を示すべく赤かピンクの服を身に着けている。お目当てのNちゃんに密かなプレゼントを渡すと、お返しに義理チョコならぬ義理バラの花を一輪いただく。相手にされていないことは百も承知で「今度、一緒に日本料理を食べにいかない?」と臭いモーションをかけていたところ…
 いきなりトラックで乗り付けた怪しい仮装集団がバーをめがけて駆け寄って来た。あまりにひょうきんな格好なのでテロか!?とは思わなかったが、何が何だかよくわからないままに小パンフレットを手渡される。中を開けばペタッとコンドームがひとつ貼り付けてある。要するに、これは公共機関とも連動したある民間団体のHIV/AIDS対策プロジェクトの一環で実行されたパフォーマンスということだった。Mplus+(某ロングステイヤー向け情報誌?と勘違いしそうになったが関係ありません。ちなみにMはMaleのことで、Mplus+は1ランクアップの男といった意味か)と題されたこのプロジェクトは「新しいタイプの男は自分の健康と安全に責任を持て」といった趣旨に基づくものらしい。
 いくらバレンタイン・デーだって、架空の恋人とバーで時間を潰している孤独な男たちにこんな素敵なプレゼントを配布するなんて、気が利いているというか、無神経というか。いきなり「責任を持て」と言われたってねぇ。

(45号掲載)

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