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ビア・ラオが飲みたい!

カテゴリー: 気まぐれ一発!コラム | 2007.05.21 Monday

 

気まぐれ60号 ビアラオが飲みたい ちょうど10年ぶりでビエンチャンを訪れた。相当変わってしまっているだろうなと覚悟していたのだが、それが意外なことにあまり変わっていなかった。もちろん、いくつかの表面的変化は目に付いた。例えば、メコン河岸に新しくできた5スター高層ホテルとか、ところどころで見かけた日本料理店とか、立派になった幹線道路とか。それでも、全体的印象としては昔ながらのビエンチャンなのだ。これは現代における10年という時の流れからすれば、実に驚くべきことである。日々めまぐるしく変化しつつあるチェンマイから来ると、余計にそう思うのかもしれないが。
 今回は、ラオス旅行をしたばかりの友人からの現地情報でインターシティ・ホテルに宿を取った。部屋からメコンのゆったりした流れが一望できる、評判通りに居心地のよいホテルである。ちょっと残念だったのは、メコンの岸辺が埋め立てされて、道路から岸が遠のいてしまったこと。以前は、この道沿いの食堂で夕暮れ時にボケーッとメコンを眺めながらダラダラ、ウダウダとビア・ラオを飲むのがビエンチャン滞在の唯一の楽しみだったからだ。何もすることがないビエンチャンだから、ひたすらビールが旨かった。フィリピンでサンミゲルが旨いように、ラオスではやっぱりビア・ラオが旨い。旅人にとっては、理屈を超えた掟のようなものである。
 本来であれば、宿にチェックインするなり散歩に出かけてそのままビールを一杯ひっかけたいところだが、旅の同行者Sさんのサジェスチョンもあって、まずは仕事を先に済ませることにする。といっても堅苦しい仕事ではなく、「ひょっとしたら仕事になるかもしれない」といった程度の仕事である。ニューヨークで旅行業をしているSさんは某有名ガイドブックの広告レップも手がけていて、こちらで勝手に見込んだラオスでのサブレップ候補にとりあえず電話してみようということになった。
「もしもし、いきなりで大変恐縮なんですが、明日は土曜ということで、できましたら今日お会いできないかと…」とSさんが電話したところ、あっさりOKとなった。しかも、たったの15分でホテルに駆けつけるとのこと。入国後ホテルにチェックインするや否や一面識もない相手にいきなり電話して即面会成立、こんな非常識とも言える早業がラオスの空気の中ではごく自然な流れに思えてしまうから不思議だ。
 きっちり15分後にオートバイに乗ってホテルに現れたMさんは、ビエンチャンでツーリスト向け季刊新聞をやっている。1年ほど前に『ビエンチャン味』としてスタート、最新号から『テイストofラオス』と改名したばかりだという。『寮国的味道』というサブ・タイトルが示すようにレストランなどの食べ物情報が中心だが、今後は他の分野も紹介していくつもりらしい。
 最新号の特集は『恋人たちのビエンチャン』。テーマのせいか、Mさんの筆も滑らかに走っている。「アツアツの鍋をつつきつつ甘いバラードに耳を傾けよけいな気づかいを通り越した関係の二人は、深まった愛情を、煮詰まってゆく鍋の旨みとともに、深く深く噛みしめるのだ」と。こんな文を読むと、すぐにでもラオス人の恋人が欲しくなってしまうではないか!? そこで『ラオス人と恋に落ちたいあなたへ』の項へ。どうやらラオス女性にはエビ料理が絶大な効果を発揮するらしい。幾多の苦渋の経験から「北タイの女性にはエビ(カニでは駄目)がいちばん」との結論に既に達していたSさんと私は「やっぱり」と顔を見合わせたのであった。ルアンパバーン出身の奥さんを持つMさんも「やっぱりエビです」と強調する。この一例をしても、北タイとラオスがほぼ同じ価値観を共有していることは明らかだ。残念ながらこの日は男3人だったので、せっかくのエビ固め恋愛指南も試しようがない。フランス料理の夕食の後、せめてもの慰めと、ラオス人の恋人を夢見てナイトクラブへ向かったのであったが…。
 さて、その翌日。Sさんと私はそれぞれオートバイを借りて、何のあてもなくビエンチャンの街を走ることにした。一方通行の道から左折するときに、ラオスでは右側通行なのにいつもの癖で左側の道に進入してしまった。すると待ち構えていたかのようにピーピーピーッと警官のホイッスルが鳴り響く。仕方なく罰金を払うと、急に親切になって道を教えてくれる。罰金をとっても憎らしげなタイの警官よりはまだましか。10年前に比べると、やけに警官の姿が目立つし、路上でのチェックも頻繁だ。いくらのんびりしたラオスでも消費経済は確実に生活の中に浸透しつつあるのに、公務員の給料はほとんど上がらない。そこでこうした罰金稼ぎにせっせと励むことになる。タイ以上に戯画的な状況にあると言えそうだ。
 メコンに沿った道をしばらく辿った村のなかの屋台食堂で昼食をとる。ラオス風麺のカオ・ピヤックを注文する(というか、それしかない)。Mさん一流の表現によれば「太麺を噛み締め、アジア人の肉体に流れた魂を思い起こす」ひとときである。庶民の味に大満足して、一路ビエンチャンの街へ引き返す。なるべくSさんの姿をバックミラーで確認しつつ運転するようにはしていたが、デコボコ道のビエンチャンでは容易ではない。気がつくと、後ろについて来ているはずのSさんがいない。途中でストップして30分待っても一向に来る気配がないので、急いで引き返すことにした。5kmほど戻ったところで、こちらに向かって来るSさんとようやく再会できた。「ゴメン、ゴメン。道を間違えたところで、またまた警官に捕まっちゃって。それも、いきなり、暑いなぁ、あービア・ラオが飲みたいなぁ…なんてほざくんだから。罰金を差し出すと、そこの屋台で一緒に飲まないか?だって。まったく参ったよ」と事情を話す。
 そんな説明を聞いていたら、こちらもすっかりビア・ラオが飲みたくなってしまった。ちょうどその先の路地を曲がれば、昨日のナイトクラブだ。というわけで、勇気を出して真昼間からナイトクラブに突入することにした。本当にビールが飲みたかっただけなのに、隣にラオスの恋人が座ると当初の目的はどこへやら。調子に乗って飲んだためか、急に酔いが回って来て、妙に頭が痛い。杯を重ねたビールがビアシンだと気付いたのは、もう日も暮れかかる頃だった。

(60号掲載)

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