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美しき黒髪のために

カテゴリー: 気まぐれ一発!コラム | 2007.05.21 Monday

 

気まぐれ77号 美しき黒髪のために 日本では「買ってはいけない」だとか「食べてはいけない」とかいった本がベストセラーになるぐらいだから、普通の人でも食品添加物や化学合成物質については、かなり神経質になっている。それに比べると、ごく一部のインテリ層を除けば、一般的タイ人はその手のことに関して極めて大らかである。とくに北タイの田舎の人を見る限り、フリーパスというかほとんど無防備に近い。
 赤や緑の毒々しい清涼飲料水(というより色水)を平気で飲んでいるし、袋から出してもずっとカビが生えないような合成保存料をたっぷり使用したお菓子もボリボリ食べている。食器を洗っても、すすぎ洗いは溜め置きのたらいの水にさっとくぐらすだけだ。少しぐらい中性洗剤が食器に残っていようとも、お構いなしである。
 先日、幼稚園に通い始めたばかりの息子の額や胸に小さな赤い発疹がたくさんできているのを発見して、タイ人にしては妙に神経質な妻はデング熱か感染症の一種じゃないかと心配そうに訴える。  ちょっと見たところ、あせものようなブツブツなので、日本人なのにかなりアバウトな私は「大したことないよ。もう少し様子をみなさい」と適当にアドバイスしたが、数日経っても一向に症状はよくならない。
 病院で診てもらったところ、シャンプーか洗濯用合成洗剤のアレルギーによる湿疹だという。子供たちが使っているのは体も髪の毛も両方洗うことができる、宣伝上はウルトラ・マイルドなシャンプーだから、シャンプー自体よりも、むしろ使用後の洗い落とし方の問題だろう。水洗いが徹底していないために、皮膚にシャンプー成分が残って炎症を起こしたものと推測される。小さい子供たちは、頭に水をかけられるのを嫌がるから、どうしても髪のすすぎ方が不十分になりがちだ。一度、それを妻に注意したことがあったが、「男のくせに、細かいことつべこべ言うな!」と逆襲されてしまった。「いや、その細かい気配りが健康のためには大切なのだ」といっても、なかなか耳を貸さない。それ見ろ、問題が起きたじゃないか。
 自分の子供時代を振り返ってみれば、小学校低学年まではシャンプーではなく石けんで頭を洗っていた。もちろんリンスなどしない。洗った後は、髪が多少ゴワゴワするが、子供だから気にしない。それで充分だった。そのうちに、いつのまにかシャンプーやリンスを誰もが使う時代になっていた。シャンプーには合成界面活性剤が含まれているので、油汚れ落としには強力な効果がある。汚れだけでなく、本来、髪を保護する成分まで落としてしまうので、リンスで補わなければならない。冷静に考えてみれば、これで二重に得するのは洗剤製造メーカーということになる。ボディシャンプーと保湿クリームとの補完関係もこれと似たようなものだ。
 現在、タイでも日本でもテレビや雑誌にはシャンプー、歯磨き粉、洗濯用洗剤などの広告が溢れている。言わばその刷り込み効果によって、我々は日常生活で当たり前のように合成洗剤を使用しているが、そうした商品が出現したのは石油化学工業発達後のことだから、それほど大昔の話ではない。実は、それら合成洗剤に含まれる成分には健康上、問題視されているものも多い。
 まだ合成洗剤なんかなかった頃、北タイの人はその代わりにどんなものを使っていたのだろう。我が家にしょっちゅう出入りして、息子の面倒を見てくれるキノコ採り名人の婆さん(生まれも育ちもメーテン奥の山村)に40年ほど前の娘時代のことを訊いてみると…。
「灰を溶かした水の上澄みとバイ・パオ(パオの葉)を煮込んだものを容器にとっておき、それをシャンプー代わりに使ったもんだ。髪につけると泡が出て、すべすべになる。フケも出ないし、痒くもならない。それでもフケが気になる人は、焼いたマクルート(コブミカン)を浸した液を髪につけるといい。洗髪した後は、ガティ(ココナッツ・ミルク)をぐつぐつ煮込んで作ったヤシ油を頭につける。貴重品だった石けんの代わりに、ヘチマを使うこともあったよ。使い始めの頃だと、ヘチマは泡が出るからね。森に生えているバーサックの木の小さな実をつぶして泡を作って洗濯洗剤の代わりにもしたさ。皿洗いには、ヤシの実の皮をスポンジ代わりにして、灰の液をつければきれいになったね。歯磨きはまず塩のかたまりを30分ぐらい口に含む。それから炭の小さなかけらで歯を真っ黒にして、それを手でこする。水ですすぐと、歯は真っ白になっているんだよ」
 つまり、出来合いの商品を買うことは滅多になく、身近にある材料で済ませていたというわけだ。昔の人には物もお金もなかったかもしれないが、本当の智慧があった。プラスティックの容器に入った石油化学製品のシャンプーなんかより、バイ・パオの自然シャンプーのほうがずっと髪にはやさしい素材であることは間違いない。
スーパーマーケットの商品棚には、タイのハーブや花など自然の素材をブレンドした「植物性シャンプー」が並んでいるが、ベースになっている原料はあくまで化学製品である。日本でも最近、椿オイル添加のシャンプーが大ヒット中ということで、知り合いの方からお土産にいただいた。美しい容器の裏をよく見れば、やっぱりカタカナで書かれた化学成分のオンパレードである。石けんシャンプーで洗った後で椿油を少量つければいいような気もするが、それでは商売にならないということなのだろう。
 試しにココナッツ・ミルクからヤシ油を作ってみた。鍋にココナッツ・ミルクの大箱を入れて、弱火でかき混ぜないように煮詰めて1時間もすると、透明なヤシ油と残りかす(これも食べられる)に分離する。そのヤシ油を小さなビンに入れ、自家製の整髪料として使うことにした。指先にほんのちょっとだけつけて髪に馴染ませると、お菓子のような匂いがする。なかなか滑らかでいい感じだ。けれども、いかんせん、髪の毛の絶対量が不足している。30代から少しずつ髪が薄くなってしまったのは、合成シャンプーのせいかもしれない。
 庭を散歩していると、寄寓にもパームの根元にパオの幼木を見つけた。もう少し大きくなるのを待って、今度はこれでシャンプーを作ってみようか。昔の北タイの人は、毛生え薬として何を使っていたのだろう。今さら手遅れだとは知りつつも、願わくば美しき黒髪の甦らんことを。

(77号掲載)

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