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一進一退のダイエット

カテゴリー: 気まぐれ一発!コラム | 2007.05.21 Monday

 

気まぐれ84号 一進一退のダイエット 先日、久しぶりにズボンを買おうかと紳士服売り場でウロウロしていたら、いきなり店員から先制攻撃を受けた。「お客様の場合は、37のサイズのほうがよろしいかと…」私が36インチのズボンを手にとっているときに、わざわざそんなことを言うのだ。こちらもついムキになって、「いや36で大丈夫です」と言い返してみたものの、ちらりと不安が過ぎる。いざ試着室ではいてみると、やっぱりちょっときつめではないか。カーテン越しの「お客様、いかがでしょうか?」との声に条件反射的に息を止めて、腹をへこます。無理やり前のホックをとめ、「ポーディ(ちょうどいい)」と涼しげな顔で答えて、当然のようにそのズボンを購入した。
 そんな伏線があったので、後日、あるサイトで、「ウェスト85cm以上の人はメタボリック・シンドロームにご用心!」との記事を見つけたときには、少なからぬ衝撃を受けた。つまり、34インチでもう86cm以上だから、腹をへこましても36インチの私などは完全に危険領域に入っている。
 このわけの解らない「メタボリック・シンドローム」という用語もくせものだ。メタボリック(新陳代謝の…)はいいとしても、シンドロームはいけない。理屈ではなく、言葉の響きの問題だ。医者に「ちょっと内臓脂肪が多いですね」と言われてもどうってことないが、「あなたはメタボリック・シンドロームですよ」とでも宣告されたら、誰もが深刻に悩んでしまう。実際、今の薬局でダイエット食品や健康食品を売るときの殺し文句は「メタボリック・シンドローム」で、その効果の程はてき面らしい。
 かくして、私も深刻に悩んだ結果、柄にもなくダイエットに励むことになった。これまでダイエットなんて馬鹿にしていたのに、シンドロームから脱出するためには致し方ない。確かに、このところ体が重く感じられて、やけに疲れやすい。このままだと、生活習慣病にまっしぐらという危機感はあった。ズボンのサイズも10年前は31だったのが、5年前は33になり、そして今は無理して36だから、その数字だけでも危機的な状況を如実に物語っている。年齢的な理由もさることながら、こちらに住むようになってからの食生活、食習慣が主な要因だろう。
 例えば、チェンマイの街角にはやたらと旨いものを売っている屋台が多い。食い意地が張っている者にとって、これを無視して通り過ぎることは至難の技だ。飲み物をオーダーすれば、これがまた思いっきり甘い。慣れとは恐ろしいもので、今はその甘さも平気で受け止めるようになった。家では、朝から肉料理、炒め物、揚げ物がどんどん登場する。しかも、その量が必要以上に多い。「食べ物を残してはいけない」と言われて育った世代としては、出されたオカズを平らげるように努力するから、つられてご飯もたらふく食べることになる。腹八分が理想なのは解っていても、腹十二分ぐらいは食べてしまう。日本では焼酎系統を飲んでいたのに、こちらではもっぱらビールである。予算上、ツマミは刺身にしたいのをぐっと我慢して、油っぽい肉料理で済ます。おまけにどこに行くにも車だから、1日に歩く距離はたかが知れたもので、運動不足にならざるを得ない。これで太らない方がおかしい。
 それでは、これだけの悪条件に対抗するダイエット方法をどうやってみつけたらいいのか? 巷にはありとあらゆるダイエット方法が溢れているが、そのどれもが正しいようで、どれもがいかがわしいような。慎重に選んだところで、その効果は保障できない。というわけで、たまたま目にした「キャベツ・ダイエット」に挑戦することにした。アントニオ猪木が糖尿病をこれで克服した事実の説得力もあったが、本当の理由はただ簡単そうだから。要は、食前にキャベツの6分の1ぐらいをよく噛んで食べればいいだけのこと。これなら、意志の弱い私でもなんとか続けられそうだ。たかがダイエットに悲壮な覚悟で挑むのは性分に合わない。
 ほうれん草ダイエットとかニンジン・ダイエットだったら、気持ち悪くなりそうだし、いくら栄養があってもアクの強い緑黄野菜の食べ過ぎは身体にもよくないはずだ。その点、キャベツだったら身体に優しく作用しそうだし、飽きもこない気がした(もっとも気がしただけで、実行したら飽き飽きしたのだが)。ただ、農薬だけは危ないので、安い市場のものは避けて、なるべくドイ・カム(ロイヤル・プロジェクト)のキャベツを買うようにした。その分野に詳しい人によれば、オーガニックと銘打ってはいても、まったくの無農薬ではなく出荷前の農薬制限らしいが、それでも少しは安全なはずだ。ダイエットに成功したとしても、農薬で癌にでもなったら、元も子もない。
 あとは身体を動かすことが重要だが、かといって運動するのは面倒なので、たまたま指導書が手元にあった西野流呼吸法を採り入れることにした。これもただ「西野バレエ団出身の由美かおるがあの年にしては異様に若い」という単純な理由からで、確乎とした根拠はない。
 このキャベツ・ダイエットと西野流呼吸法の併用がそろそろ効果を見せ始めようかという頃のことだった。街を歩いていたら、辺り一帯にこの上なく香ばしい匂いが漂っている。その匂いに引き寄せられるように進んでいくと、サイクローク(タイ風ソーセージ)を焼いている屋台があった。それもただのサイクロークではなく、大好物のサイクローク・イサーンなのだ。チェンマイで売っているサイクローク・イサーンと称したものはいい加減なものが多いが、これは見たところ本格派である。豚の脂が炭火に落ちて、ジュージューといかにも旨そうな音を立てている。初めはただ見るだけで我慢するはずだった。だが、ふとそのとき「無駄な抵抗はやめろ」という天の声が聞こえて、遂に誘惑に負けて特大ソーセージを3本も購入してしまった。しばらくこの手の食い物は口にしていなかっただけに、その旨いこと。と同時に、文字通り、我が臓物に豚の脂が滲みこんでいくのがありありと判った。これまでの努力が水の泡となったカタルシスが肉汁の旨みに溶け込んでいく。ビニール袋にたくさん入れてくれた付け合せのキャベツがせめてもの慰めであった。

(84号掲載)

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