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遥かなるチャイントン

カテゴリー: 気まぐれ一発!コラム | 2007.05.21 Monday

 

気まぐれ89号 遥かなるチャイントン 旅をしていていつも思うのは、「この地を再び訪れることはあるのだろうか?」ということだ。かつて東南アジアを10ヵ月間あちこち旅して回ったことがあるが、その後、再訪した場所は数えるほどしかない。「ぜひもう一度、あそこに行ってみたい」と思ってはいても、何らかのきっかけと縁がなければ、なかなかその願いは実現しない。個人的経験から言うと、やはり「人とのつながり」がキーポイントであることが多い。
 ミャンマー=シャン州の街チャイントンを初めて訪れたのは、長らく「秘境」であったこの土地が外国人旅行者に開放された1993年のことだった。現地情報が少なく、政治情勢も不安定なところへ、まだタイ語もろくに話せない私がひとりで行くのはあまりに無謀である。当時、仕事上の子分的存在だったリス族の青年ソンブーン君に声をかけて、「冒険旅行」に同行してもらうことになった。
 タチレクからチャイントンまでの道は未舗装の悪路だと聞いていたが、メーホーンソーンの山村育ちのソンブーン君は「俺は山道のプロだから、任せておけ」と自信たっぷりに胸を張る。頼もしい発言に勇気づけられて、レンタカー(4輪駆動ジープのカリビアン)をミャンマー領内に持ち込むことにした。現在は車の所有者確認などチェックが厳しいらしいが、当時の手続きはいたって簡単で、個人の入国手数料に加えて車の持ち込み料を支払うだけで済んだ。
 国境を越えて10分も車を走らせると、タイ側とはまったくの別世界が出現する。いや、別世界と言うのは妥当な表現ではない。もともと歴史的、文化的にはシャン州も北タイもほとんど似たような世界だったのに、第二次世界大戦後の政治経済的な社会事情の変化によって、両者のギャップがどんどん広がっていっただけのことだ。解りやすく言えば、実感として40〜50年前のタイがそこにあった。車に揺られて風景を眺めているだけで、タイムマシーンに乗って時の流れを逆行するような幻惑的な興奮を覚えたものだ(今はそのギャップがだいぶ縮まってきたかもしれない)。
 道路事情も大昔レベルで、噂通りの悪路が延々と続く。せいぜい170km程度の道程を地元のドライバーは7時間もかけて慎重に運転するところを、血気盛んで自信過剰気味のソンブーン君は終始一貫してパリ=ダカール・ラリー並みのアクロバティックな運転に挑む。「この調子なら5時間もあれば充分さ」と豪語したのも束の間、ゴツン!と鈍い音がした。大きな石を避けきれずに、もろに車体をこすってしまったのだ。路上にガソリンがポタポタと滴り落ちている。幸いにも町の近くだったので、修理屋らしき職人がすぐに見つかった。何とか応急処置をして走行可能な状態になったが、このアクシデントで3時間もロスしてしまった。
 再出発して、しばらくすると日が沈み始め、辺りがだんだん暗くなってきた。しかも、川沿いの崖っぷちのガタガタ道を走っていくとあっては、今にも転落しそうで気が気ではない。さらに、前方からは銃を担いだ2人組の兵士が近づいてくる。ミャンマー政府軍か、反政府系のシャン州軍か? どちらであっても怖い。こんな寂しいところでは、いつ山賊に変身しないとも限らない。普段は強心臓のソンブーン君も恐怖心を隠せない。何事もなく兵士とすれ違った後で、お互いに「助かった…」と溜め息をつく。
 これ以上、暗くなってからのドライブはどう考えても危険なので、その日のうちにチャイントンまで行くのは諦めて、次の町に泊まるしかなかった。といっても、小さな田舎町だから、ホテルはおろか安宿だってありゃしない。途方に暮れて、レストランの店主に相談すると、「うちの2階に泊まれば」と言うので、ありがたく善意に甘えることにした。そのときの家の中の様子はほとんど記憶にないが、隣の部屋に美人四姉妹の娘さんたちがいてドキドキしたことだけはなぜか覚えている。
 翌日は何のトラブルもなく悪路をクリアして、昼頃にようやくチャイントンに辿り着いた。5時間のはずが2日がかりの旅になってしまった。それだけに、ずいぶん遠くまでやってきたという気がした。実際にその頃のチャイントンは、ほとんど知る人もいない「遥かなる都」だった。
 街の中心にあるノーントゥン池には、今は語り草になっているレストラン併設の「ゴーゴー・ステージ」があって、毎晩、ミニスカートをはいた美少女が踊っていた。こちらが誘えば、一緒に踊ってくれるシステムになっていたようだが、さすがに恥ずかしいので黙って眺めるだけだった。深い闇を湛えた静かな街の佇まいと、猥雑でやかましいステージの奇妙な取り合わせには不思議な異化効果があった。
 ぜひ次回はこの魅力的な街にゆっくり滞在してみたいと思ったが、意に反してしばらく再訪の機会が訪れることはなかった。それが実現したのは、ようやく今年になってのことだった。

(次号:チャイントン再訪に続く)

(89号掲載)

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