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ムラブリ族の基礎知識

カテゴリー: タイの山岳民族(三輪隆) | 2007.05.21 Monday

 

46号 ムラブリ族の基礎知識1 ムラブリ族はモン・クメール語族に属し、タイ北部のナーン県とプレー県の森の中に、わずか250人あまりが生活している。タイ北部では唯一の狩猟採集生活民族である。一般には「ピートンルアン」(黄色い葉の精霊)の呼称で有名である。日本のテレビ番組などでも最近何度か取り上げられたので、ご存知のかたも多いと思う。
 オーストリアの民族学者、フーゴー・アードルフ・ベルナツィークが1940年代に著した「黄色い葉の精霊」(大林太良・訳、平凡社東洋文庫所収)には、ピー・トン・ルアン(邦訳ではタイ語の発音に則してピー・トング・ルアングと綴られている)ことムラブリ族について、次のように記載されている。
「ピー・トング・ルアング族は、中央アジアの広大な山塊に端を発し、メコン河とメナム河の広い谷間にはさまれて南に伸びている山脈の、深い原始林の中に、伝説と謎につつまれて生活している。土地の言葉でピー・トング・ルアングとは、<黄色い葉の精霊>を意味している。というのは、少数の猟師が深い密林の中で見つける、急いで建てられて、すぐに捨てられた風除け以外には、彼らについて何も知らないからである。風除けのしぼんだ葉と、彼らの消えた焚き火が、精霊についてのラオ人の空想力を大いにかき立てた。他の人間との接触をそれほどまでに気づかって避けている人たちとは、いったいどんな種類の生き物なのだろうか。彼らは密林の奥深く生活することができ、いつも休みなく漂白するらしく、その痕跡を今はある場所に、次には別の場所にと残すので、野生の動物のあとを追うより彼らの後を追うほうが難しいのである。ラオ人はそれが一体、人間であるかどうかあやしんでいる」(大林太良訳)
 屋根材に使ったバナナの葉が枯れて黄色く変色する頃には、忽然とどこかへ消え去ってしまうことから、「黄色い葉の精霊」と呼ばれ、その生活ぶりは謎と伝説に包まれていたが、最近になって多くの研究者がその言語や世界観を研究し始めている。
 ムラブリ族は、先祖からの言い伝えにより、農耕を一切行わず、主にヤマイモや果実、山菜、蜂蜜などの採集、そして小魚や小動物の狩猟のみによって生活してきた。バナナの葉で小さな日よけ程度の住居を作り、森から森へと移動を繰り返すのだ。ただし、1999年ごろから、タイ政府などの指導により定住を果たし、「東南アジア最後の裸族」と呼ばれたかつての生活のスタイルは姿を消し始めている。もうほとんどの人が服を着ているし、一部では農耕や畜産を始めた人もいる。
46号 ムラブリ族の基礎知識2 もともとタイ北部の先住民的な存在だったムラブリ族だが、ここ数十年の間に森林の伐採や山地民の焼畑農業などによって森の中に食料が少なくなり、多くは自給自足の生活ができなくなり、モン族などに雇われて畑を手伝うようになった。そして最近では観光業者が欧米人などの客を連れてムラブリ族のもとを訪れるようになった。
 ムラブリはとても正直で心やさしく、穏やかな性格の持ち主で、争いごとを好まない。嘘をつかないし、盗みもしない。何かトラブルに見舞われそうになれば、ただ逃げるだけである。特筆すべきは彼らの話す言語の美しさで、まるで歌か小鳥のさえずりのようにやさしい、フラジャイルな響きを持っている。そんな世にも美しい民族が今、歴史から静かに消え去ろうとしている。なんともさびしいことだ。

(46号)

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