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ヤオ族の儀礼『掛三台燈』(1)

カテゴリー: タイの山岳民族(三輪隆) | 2007.05.21 Monday

 

49号 ヤオ族の儀礼。 今回はヤオ族の代表的な通過儀礼を紹介する。約1年半前に、さくらプロジェクトのスタッフであるカンポン君の実家で行われたものを見学することができた。
 掛三台燈の儀礼とは、ヤオ族の成人式とも、霊界への入社式とも言われ、ヤオ族の男性にとっては、結婚式、葬式に勝るとも劣らないほどの重要な儀礼のひとつである。家族単位、同姓集団単位で行われ、カンポンの一族(村の中のセイチャオ姓の集団)でも、前回この儀礼を最後にやったのはカンポンが生まれるか生まれないかの頃、約24年前のことだという。まさに一世一代の大イベントなのである。儀礼を行う他村のシャーマンへの報酬や、ヤオ族に伝わる神画のレンタル料、衣装代、さまざまな道具代、儀礼中の食費など、膨大な出費を要し、ある程度の経済的な余裕がないと行えないし、またこれを行わないと、一人前のヤオ族の男とは認められないのである。
 この儀礼の概要については、白鳥芳郎編「東南アジア山地民族誌」(講談社 1977年)の中の竹村卓二氏の解説「功徳増進儀礼―クヮタン(掛燈)」に詳しいので、一部引用する。
「ヤオ族の入社式は、その世界観や価値体系と密接に結びついている。ヤオ族の人々にとって人生最大の目標は、少しでも多くの資産を蓄積して、それを功徳増進儀礼に投入し、死後霊界において、できるだけ有利な安定した地位を確保することにある。霊界のことを〈トムトーン〉(大堂)といい、そこは18人の神官、すなわち〈トム・トーン・ミエン〉(大堂鬼)を頂点とする官僚的ヒエラルキーによって秩序づけられ、個人は生前にどれだけの功徳を積んだか、換言すれば、どれだけの富を霊界の神官や祖霊の供養のために投資したかによって、その序列が判定されると信じられている。
 クヮタンは、第1段階の入社式である。正確には〈クヮ・ファム・トエ・タン〉(掛三台燈)といい、クヮタンはその略称である。儀礼の際、3基の燈明が設けられるところからこの名がある。この儀礼を通過してはじめて、〈一人前のヤオ人〉としての成員資格を取得する。同時に成人名および霊名(家先単に登記される氏名)が、正式に認定される。」
50号 ヤオ族の儀礼■ さて、儀礼の1日目。村の中年男性たちが大勢集まって儀礼に用いられる様々な準備に邁進する。儀礼を受けるものが座る木の椅子(タッチェン、タッソッド、タッサンなどといわれる特別な種類の木しか使用できない)、シャーマンが読み上げる霊界に捧げる言葉の写経(漢字で書かれている。ヤオ族ではすべての儀礼のテキストに漢字が用いられる。ヤオ族の宗教は道教に根ざしており、老人の多くは中国語の読み書きができる)、儀礼中に燃やす護符(白紙のもの、金紙を使用したものなど様々)や、呪具(木偶人形や、ミニチュアの舟など)などすべて手作りで行われる。
 今回、儀礼を受けるのはセイチャオ姓のカンポンの親戚一同14名である。場所はカンポンの父方の親戚の家。しかし椅子を数えてみると、15個ある。これは4年前に亡くなったカンポンの弟の分も数に数えているのである。チェスタートンは「死者にも投票権を与えよ」といったが、死者もまた、儀礼に参加する資格があるのだ。韓国にも死んだ未婚の若者のために結婚式を行う死者婚というのがある。

(49号掲載)

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