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ヤオ族の儀礼『掛三台燈』(2)

カテゴリー: タイの山岳民族(三輪隆) | 2007.05.21 Monday

 

49号 ヤオ族の儀礼。 掛三台燈の儀礼の2日目は、十八神像画という、屏風絵のような18枚の絵が飾られた祭壇の前で、儀礼を司る司祭たちが白い和紙のようなものに写経された漢字のテキストを読み上げたり、踊りを舞うようなステップと仕草で祭壇に敬意を表する儀礼で始まる。受礼者は儀礼が一段落するごとに控え室に入るが、その間も司祭たちはほとんど休むことなく何らかの儀式やその準備に明け暮れているように見える。受礼者当人よりも司祭やその助手、その他裏方さんたちのほうがはるかに多くの労力と体力を要しているように見受けられる。しかも次から次へと続く、その儀礼の準備を整える司祭たちの段取りと手際のよさには感心させられる。豚、鶏、お札、短冊、六文銭、木偶、何ひとつ欠けても儀礼が円滑に進まないと思われるような小道具をちゃんと抜かりなく時間どおりに整えている。
50号 ヤオ族の儀礼■ 受礼者が各自の椅子に着席したあともさらに数時間、司祭の読経と奇妙な舞いが続き、やがて、燈明点火の儀式が始まった。バナナの茎を台座に使った燈明で、3本の白いロウソクが灯される。燈明はそれぞれの受礼者につき3個ずつあり、中央の一段高いものは生命を、両側の2個は各自の守護礼を象徴するものだという。それにしても神秘的というか怪しげなというか、なにかの秘密結社への入社式を思わせる通過儀礼ではある。
 3日目の早朝。前夜から夜明けにかけて行われた燈明の儀式に続いて、走七星羅歩(銅銭踏み)の儀礼が行われる。掛三台燈の一連の儀礼の中でも、ひとつのクライマックスである。白い布を土間の上に敷き、その上に置かれた7枚の胴銭をある一定のルールにのっとって片足ずつ交互に踏んでいくというものである。棒杖をもった司祭のリードに従って行うのだが、これがスムーズに行われると、小さな白い布の上で何か踊りを舞っているようにみえる。しかしたいていの者は初めての経験なので動きがぎこちなく、バランスを崩してしまう。
 竹村卓二によれば、これは7つの星(北斗七星)を通過して天界に達する行程を表現するものであるという。白い布の上で銅銭を踏みながら歩く軌跡は、北斗七星の形を描くといわれる。それは、彼らが歴史的にたどってきた道のりをも表わしている。
 かつてタイのヤオ族の村でこの儀礼を取材した写真家の十文字美信は、「澄み透った闇」(春秋社、1987年)の中で、こう書いている。
「ヤオ族の伝説によると、12〜13世紀に彼らの祖先は中国大陸洞庭湖近くの山岳部に集落を構成していたが、それ以前の遥か昔は現在の南京周辺に住んでいたらしい。(中略)いまここであらためて彼らヤオ族の数千年の旅の足跡をたどってみると、興味ある事実に気がついた。出発点である南京から現在の地であるラオス、ビルマ、タイ三国国境地帯までヤオ族の言い伝えどおりに線を結ぶと、北斗七星のあの独特のひしゃくの形があらわれたのである」
 ナスカの地上絵にも匹敵する壮大な話ではないか。

(50号掲載)

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