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アカ族の住居(2)

カテゴリー: タイの山岳民族(三輪隆) | 2007.05.21 Monday

 

56号 アカ族の住居■ アカ族の住居が男女別室に分かれていることは前回に書いた。
 各部屋はさらに、入り口から近い順に、ホビホ(居間)、ホメタ(寝室)と呼ばれる空間に別れており、特に仕切りはないものの、その用途と意味は厳然と区別されている。ホピホ側の壁には炊事用具や食器、食物など日常使うものが雑然と棚に積み上げられていたりするが、ホメタ側の壁には、先祖代々継承してきた儀礼用の物品を入れた籠など数点がおかれているのみである。ホビホまでは土足で歩きまわることができるが、ホメタには靴を脱いで上がらなければならない。家畜である犬なども、ホビホまではよく上がってくるが、ホメタに侵入すると家人に思い切り殴られたりする。
 男女各室の居間には、それぞれ囲炉裏がしつらえてあり、ここで炊事や一家の団欒など日常生活が行われる。客人があった場合などは、男性側の居間でお茶を沸かしたり料理を作ったりすることもある。アカ族にとって客人の接待は男性の仕事であるからだ。
 確かに、ふだんアカ族の村へ行くと、畑仕事はもちろんのこと、水汲みや精米、機織りや刺繍など、女性のほうが重労働しているように見受けられる。特に中年以降の男性は、畑仕事にもあまり行かないで、家で留守番がてら、孫の子守りなどをしていることが多い。いい年をした男たちが昼間から家でこんな風にぶらぶらしていていいのかよと思わず皮肉をいいたくなるのだが、これが結婚式とか葬式とか、新居の建設、村での共同儀礼の時になると事態は一変する。男性たちはまるで水を得た魚のようにかいがいしく動き回り、豚や水牛の屠殺、棺桶作りなどにいそしむ。日常と非日常で男女の役割が逆転することもあるのだ。
55号 アカ族の住居。 家の中に囲炉裏がふたつあるのはなんとなく不経済に思えるが、実はアカ族にとっては重要な意味をもっている。囲炉裏、とりわけ男性の部屋の囲炉裏は、生活空間であると同時に、アカ族にとって必要な数々の儀礼をとりおこなう儀礼空間なのだ。生活様式が変わって、炊事場が母屋とは別の場所に移動したりしても、母屋の男女各室には依然として、小さな、ほとんど実用的とは思えないようなサイズの囲炉裏が、まるでとってつけたようにしつらえてある。普段は使わなくても、儀礼のときにはちゃんと火を起こし、生け贄用の鶏を焼いたりするのである。そして何よりも重要なのは、囲炉裏の上につりさげてある「ホタ」と呼ばれる火棚である。建築が近代的になり、いよいよ囲炉裏をしつらえることが不可能になると、儀礼状の囲炉裏は七輪(いわばリムーバブル囲炉裏である)に取って代わられることがあるが、この火棚だけは必要不可欠らしく、男女の部屋の間仕切りの部分の柱にくくりつけられている。もうそれは火棚とさえも呼べないような代物なのだが、それでも彼らは他ではなくまさにこの棚の上に、儀礼用の様々な道具を保管しておかなければなければならないのだと信じている。
 最近では、財をなしたアカ族の人々が、平地タイ人にならって木材とスレートを使った近代的な家を建てることが多くなったが、彼らがアニミズムを信仰する限りにおいては、最低限守らなければならない決まりがあるのだ。それはときに、「名残」として、とってつけたような滑稽さをもって、住居空間の中に残存している。そこから伝統と近代のはざまに生きる彼らの現在が、透かし模様のように見てとれる。

(56号掲載)

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