チェンマイ発・ちょっとディープな北タイ日本語情報誌CHAO『ちゃ〜お』は毎月10日、25日に発行。本文へスキップ

<< ヤオ族の結婚式(前編) | 最新 | アカ族の葬式(前編) >>

ヤオ族の結婚式(後編)

カテゴリー: タイの山岳民族(三輪隆) | 2007.05.21 Monday

 

 花嫁行列の一団が新郎の家の近くの広場に到着すると、いよいよ楽団の演奏も賑やかになり、村人の観衆も集まってきて、最初の儀礼が始まる。広場では花嫁を囲んで大きな輪ができ、まわりに席をあたえられた長老たちに酒が振る舞われる。このあたりのことは、『CHAO』69号の岡本麻里さんの「北タイ散策」の記事を参照。
 ヤオ族では、嫁入りのとき、新婦は家の正面の玄関から入ることを許されない。必ず勝手口から入る。花婿の家の祭壇の前で儀礼を終えてはじめて、その家の嫁として認められるからである。
 花嫁が新郎の家に入ると、新郎の家の中で儀礼が行われる。シャーマンが先祖の祭壇の前で祈祷をし、酒の注がれた小さな杯を新郎新婦に飲ませる。日本でいえばいわゆる三三九度の杯である。そして水牛の角でできた2枚の板を宙に投げ、床に落ちたその角度などで新郎新婦の縁を占う。
 また、儀式を終えたばかりの新郎新婦が来賓ひとりひとりに、おしぼりで顔や手を洗ってもらうという儀礼もおこなわれる。
 朝の儀礼が終わると、新婦はやっとつかの間の休憩をあたえられ、新郎の家の居間で仮眠をとることができる。しかし、その夜、ふたたびハードな儀礼が待っているのだ。
76号 ヤオ族の結婚式後編1 夜7時頃、新郎の家では来賓を招いての儀礼と披露宴が始まる。祭壇を背にして、6、7人が座れる程度の来賓用の客席が設けられ、新郎新婦は二人並んで、次々に入れ替わる来賓と祭壇に向かって、腕を組んで前に差し出し、立ったりしゃがんだり、頭をたれて礼をするという一連の動作をえんえんと繰り返す。その間、例のチャルメラのような管楽器と太鼓、シンバルによる楽団の演奏が絶え間なく続く。
 新郎は祭壇に向かって右側、新婦は左側に立つ。新郎はタオルを折り畳んだものを両手でつかみ、新婦は付き添いの女性が持っている長い襷の端をつかんで、新郎の動きに従って立ったりしゃがんだりする。一回の「礼」の動作に1分ほどかかり、最初の頃の来賓は位の高い人々ばかりなので、「礼」の動作を何度も繰り返さなければならない。15回くりかえせば10分以上かかる。やっている当人たちも覚えていられないのだろう、何回動作を繰り返したかをトウモロコシの粒で数える係の人も座っている。来賓は多い場合は何十組とあるため、この儀礼は深夜にまでおよぶことがある。立ったり、座ったりの動作を7時間以上も続けなければならないのだ。
 最初のうちはこの儀式を見物するギャラリーも多く、新郎の家の中は熱気に包まれているが、そのうちに飽きてきて、外へ出てしまう。最後には新郎新婦とその付き人たち、そして次々と入れ替わる来賓、楽団といった人々たちだけが、淡々と儀礼を遂行し続ける。楽団の人々も、5時間、6時間ぶっつづけの演奏はかなりきついらしく、時計が深夜12時をまわったころには、太鼓たたきのおじさんが、うつらうつら居眠りをしながらバチを叩いていたりするのがほほえましい。シンバルのおじさんも時々コックリコックリしている。
76号 ヤオ族の結婚式後編2 私はこのハードな儀礼を見ながら、ヤオ族の娘と結婚式をあげるときは事前にきびしいトレーニングを積んで体を鍛えておかないと、式の最中にぶっ倒れかねないなと思った。
 そのゆったりとした、荘厳で退屈な儀式がえんえんと続いている間、隣の部屋では村人たちを招いての酒と豚肉三昧の宴会が繰りひろげられ、老人たちが詩吟のような節回しで伝統的な歌をうたい、家の外の広場では、深夜のオープン・ディスコが二晩目を迎えてさらに盛り上がる。その喧騒と暗闇の狭間では、また新たなカップルが誕生する予感がする。

(76号掲載)

タイの山岳民族 タイトル一覧へ

 

タイの山岳民族(三輪隆) | Top