チェンマイ発・ちょっとディープな北タイ日本語情報誌CHAO『ちゃ〜お』は毎月10日、25日に発行。本文へスキップ

<< アカ族の葬式(前編) | 最新 | 山岳民族とケシ栽培 >>

アカ族の葬式(後編)

カテゴリー: タイの山岳民族(三輪隆) | 2007.05.21 Monday

 

 さて、ボェモ(アカ族の呪師)が棺桶の前で、父子連名法による先祖代々の名前を唱えることによって故人の「霊界への旅立ち」のナビゲーションをしている間、個人の親族や友人であった女たちは女部屋に集って、独特の節回しをもった別れの歌を詠唱する(アチアチュー)。リーダー的な女性が最初の一節を歌い、それに続けるように他の女たちが一斉に合唱し、家の中になんともいえず荘厳な歌声が響く。
 家の外でも若者たちが歌を歌う(クドゥグゥ)。そのとき、羽子板のような木の板に幾何学模様が焼き鏝で刻み込まれたものを指でなぞりながら歌う。これはアカ族の楽譜に相当するものらしい。
 また、高床式の家屋の縁の下には、美しい曲線を描いて盛られたすり鉢状の山が作られ、それに竹で編んだアカ族独特の籠がかぶせられる。葬儀が終わったあと、この籠を開けて、その模様から死者が無事に霊界に旅立てたかどうかを占うのだという。
 盛大な葬儀になると、駄菓子や夜食を売る夜店が並び、村によっては、葬儀のときに限って、日頃はご法度である賭博行為なども解禁になることがある。弔問客を葬儀の場にひきつけておくための配慮だろう。あちこちで男たちの興奮気味の歓声や叫び声、ため息などが聞こえてくる。
78号 アカ族の葬式後編1 埋葬の日、ピマやヴェモが水牛を生贄にする儀礼を行う。
 喪主の家の前の広場につながれた水牛を、塩を与えて気を落ち着かせる。そしてピマが独り言のような小さな声で呪文を唱えながら、儀礼用につくられた特別な槍で腹のあたりをつく。もちろん小さな槍で一突きされたぐらいで水牛がもんどりうって倒れるわけではない。ピマの一突きを合図に、何十人という男たちが一斉に水牛に襲いかかり、首根っこや足を押さえつけ、腹の上に乗って何度もジャンプし、圧死させるのだ。映像的にはかなりの「残酷物語」であるが、これがアカの伝統的な葬儀のクライマックスである。息絶えた水牛の体には水と籾がまかれる。
 水牛はその場で即座に解体され、葬儀に参加した村人たちに公平に分配される。長老格の人や儀礼に貢献した人には頭や肝臓など特別な部位の肉が分け与えられる。
 埋葬は若い男たちが棺桶を担いで山道を速いペースで駆け上がる。村の埋葬地では首尾よく、すでに深さ2メートルほどの穴が掘られている。野辺送りをするする人間たちは、村を出るとき、そして帰るとき、日本の神社の鳥居に似た「ロッコン」という門をくぐっていかねばならない。
78号 アカ族の葬式後編2 埋葬が終わると、野辺送りに参加した人々は、土の中に埋めたロープを手に持ち、掛声とともに一斉にその手を離す。死者と縁を切って、戻ってこないように祈る象徴的な行為だろうか。人々はこれが終わるとわれ先に埋葬場所を去り、急いで村に帰る。振り返ってはならないという。
 男の人が亡くなったとき、埋葬のあとアカ族では一頭の馬を森に放す。この馬は死者を霊界に送り届けるためのお供のようなものだという。馬が自分で村に帰ってきたときは持ち主に返されるが、森の中で偶然誰かがこれを捕らえた場合は、その人に飼う権利が与えられるという風習がある。しかし森の中でこの馬を捕らえることのできるのは、アカ族以外の人か、アカ族でも祖霊崇拝を信仰していない人々に(たとえばキリスト教徒)限られる。

(78号掲載)

タイの山岳民族 タイトル一覧へ

 

タイの山岳民族(三輪隆) | Top