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天使の言葉・ムラブリ語

カテゴリー: タイの山岳民族(三輪隆) | 2007.05.21 Monday

 

84号 天使の言葉ムラブリ語1 タイ北部、ナーン県とプレー県に住む東南アジア最後の狩猟採集民族・ムラブリ族の言葉は、私がこれまでに耳にしたことのある数々の民族の言語の中で、もっとも美しい響きをもった言葉に思える。
 男も女も、全体のトーンが高く、特に語尾の部分を高音で長く伸ばし、やさしく歌うように、ささやきかけるように話す。ソプラノのピアニッシモという感じだ。私は、まだ実際のムラブリに会う前に彼らが家の中で会話しているのをテープに吹き込んだものを聞かせてもらったとき、家族で何か即興のミュージカルでも演じているのではないかと思ったほどだ。
 ムラブリの人たちは本当にやさしい。その穏やかな精神性は言葉にも表れている。こんなやさしいトーンで話されたら、喧嘩も戦争もはじまらないだろうし、子どもだって叱られた気分にはならないだろう。
 ムラブリ語は、オーストロアジア語族モン・クメール語派に属し、カムー族やルア族の言語と起源が近いといわれる。ナーン県とプレー県のムラブリ語には若干の違いがあるとも言われているが、以下はナーン県のムラブリの人々から聞き取ったもの。

1から10まで ムイ ベル ぺ ポン トン タール グル ティ ガイ ガル
私「オー」 あなた「メー」
お父さん「ムァム」お母さん「ムー」子ども 「オテーオ」
男「ヨーン」女「ウォーイ」
娘「エルゴード」息子「エルバーオ」
兄 「ディン」 弟 「ルーイ」
名前はなんですか? 「ブリ ティドー」
私の名前はトンです。「オブリー トン」
家 「ゲーン」
犬「ブラーン」猫「メーオ」豚 「チョブッ」水牛「クレー」
ご飯を食べる「ウォ ユー」
水を飲む「ウォ イウー」
酒を飲む「ウォ・ジラー」
おいしい「ジョーイ」または「ジョーシ」 
おいしくない「ケボ ジョーイ」
好き「マーク」嫌い「ケボ マーク」
 
ムラブリ語の否定語は「ボ」または「ケボ」 タイ北部方言やラオ語も否定語は「ボ」なので、否定詞はタイ語系の言語からの借用とも考えられる。

寒い 「タカッ」暑い「ホーン」
腹が痛い「モン プラム」
モン族の人「トゥルン ブア」
木「ムケー」森「ブリー」(「ムラブリ」は森の人の意味である)山「ユーウ」 
星「サモン」空「カンクゥ」
ヤマイモ「エー」米「ユゥ」とうもろこし「サロー」
パイナップル「ガナー」パパイヤ「チャフー」
どこへ行くのですか?「ジャカレーーン」
向こうへ行きます 「ジャグリー」
どこから来ましたか? 「リクレーーン」
遊びに行きます 「ジャグエーー」
さようなら 「オヤジャー」(もう帰りますの意)
今日「タルゴー」明日「ラーン」昨日「ネー」

84号 天使の言葉ムラブリ語2 ムラブリ語の話し手は現在、タイ国内に300人ほどしか残っていない。そしてこの数十年の間に、彼ら自身もタイの文化に同化しつつあり、借用語が増えて次第に独自の語彙を失いはじめている。若い世代は、ムラブリ同士の会話の中にもしばしばタイ語を交えるようになった。おそらく数十年内には、ムラブリ語はこの地上から永遠に消え去ってしまうのではないかと思う。このような美しい言語が消滅していくのは本当に惜しまれる。民族衣装や工芸品はそれを残してさえおけば、後世の人がいつかその技術を再現してみせることが可能かもしれない。しかし、言語だけは博物館に入れることができない。実際の生の話し手によってこそ初めて継承されていくものだからである。

(84号掲載)

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