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モン族の葬式(1)

カテゴリー: タイの山岳民族(三輪隆) | 2007.05.21 Monday

 

「ドンドンドン……」
 村の中に速いリズムの太鼓の音が響き渡るのを聞くと、モン族の子供たちは恐怖におびえるという。それは死人が出て、葬式が行われている合図のようなものだからだ。
 モン族では人が亡くなると、まず最初に喪主がしなければならないことは「コーケー」と呼ばれる村の役職者のところへ依頼に行くことだ。コーケーはモンの葬儀において僧侶のような役割を果たし、その後の1週間からときには10日間以上におよぶ葬儀が滞りなく完遂されるまで、すべての段取りの統括指揮の責任を負う。儀礼に必要な豚や鶏が何頭で、どんな道具が必要で、埋葬に適した日取りがいつかなど、すべて指図する。
 親類や村人たちの中から、炊き出しの世話、豚や鶏などの調達、買出し、埋葬の準備、ケーン(笙)や太鼓の奏者の役割分担がなされる。長い葬儀の間、喪主は弔問客らのために三度三度の食事を作ってもてなさなければならない。料理はなぜか肉類が中心で、豚肉を煮たもの、揚げたものなど、単調な味付けでなおかつ油っこいものが多い。毎日のように豚や鶏がつぶされる。男たちは葬儀の間中、酒(焼酎)を酌み交わす。
89号 モン族の葬式1−1 葬儀の間、死者にも三度三度の食事が供えられ、家の中の土間では、二人の男が和太鼓のような巨大な太鼓の音に合わせてモン族独特の大きなケーンを踊りながら吹き続ける。くるくるとまわる踊りである。またザラ紙で作った護符や金色の紙で作った模造の金塊などを死者に供える。
 モン族の葬儀の基本的なコンセプトは、死者の魂を彼が生まれた場所まで帰してあげることだという。コーケーは、故人がこれまでの人生ですごしてきたそれぞれの場所(焼き畑農業をしてきたモン族は、かつては頻繁に移動、引越しを繰り返してきた)を調べ、その地名や村の名前を、時間軸を逆にさかのぼって読み上げ、最後に、生誕した場所にたどりつくようにする。死者の魂は自分のたどってきた道を帰って生まれた場所に戻るのだ。
 モン族の葬儀の特徴的な点は、通夜の間中、遺体を棺に入れないことである。死装束こそ着せ替えはするが、遺体は一貫してむき出しのまま、祭壇の前に安置される。当然遺体は腐り始め、蛆がわき、異臭を放ち始める。それでも遺族や弔問客たちはモン族のしきたりにしたがって、最後まで遺体と向き合う。
89号 モン族の葬式1−2 かわるがわる立ち寄る弔問客たちは、遺体にすがるようにして大声で泣き、そして何か歌うように死者に語りかける。これはもちろん死者を悼み、悲しむ歌であるが、同時に故人の死を契機に、弔問客(特に女性が多い)自身が自分のこれまでの人生の辛酸や悲しみ、苦悩を物語のように告白する場でもあるという。他者の死を契機として、リアルな死体と正面から向き合いながら、自分の人生をそれに重ねあわせ、人間の死や存在について考える機会でもある。この告白というか懺悔のような自分史の吐露の内容は完全なアドリブで、もしモン語がわかる人であればかなり興味深い内容であろう。この「語り」は同時に何人もの人が行い、ときに不協和音のような奇妙な響きをもった大合唱のように聞こえる。

(89号掲載)

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