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リンチーの木

カテゴリー: みちくさ写真 | 2007.05.21 Monday

 

みちくさ50号 リンチーの木


 リンチー(ライチ)の畑の中に住んでいた時のこと。
 ずいぶん年老いた大木ばかりだったが、赤く熟れた実をたわわにぶら下げた年もあった。風が吹いたり雨が降ったりする度にぼとぼと落ちてくるので、庭の地面が実で覆われたことがある。
 そんな賑やかな実りの時期が過ぎると、リンチーの老木を見上げることもなくなる。
 ある朝庭を掃いていた夫が、湿った大きなナメクジのような生き物を見つけた。
 シマリスの赤ちゃんだった。
 夕べの雨でリンチーの木の上の巣から落ちてきたのだろう。冷たくなっていたが、まだ息をしている。スポイトでミルクを飲ませてみると、掌の中でクックッと意外によく飲んだ。そうなると可愛くなってきて、夫婦で2時間置きにミルクを与え、まるで、桃太郎かかぐや姫のお爺さんとお婆さんのような気持ちになった。
 5日目ごろ、まん丸だった子リスの顔が伸びてきて、どう見てもネズミ顔を否めなくなった時は、なんだか残念だったが、子リスはすくすく元気に育っていった。
 そして、もと来たリンチーの木へ返す日が来た。
 真下から見るとまたずいぶん大きな木だ。小さなリスはその幹に取り付いて、甲高い声で鳴きながら登っていった。
 それからは、頭上から「チチチ」とリスの声が聞こえ、梢にリス達の姿が見えたりする度に嬉しくなった。そして、リンチーの木陰で、木の上の暮らしを想像する楽しみが出来たことを、私はとても気に入っていた。
 あれから何年か経った今、あのリンチー畑は、アパート建設を待つ更地になっている。

(50号掲載)

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