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ラフ・ニ族の農耕儀礼

カテゴリー: タイの山岳民族(三輪隆) | 2007.07.21 Saturday

 

ラフ・ニ族の農耕儀礼 3月の中旬ごろ、ラフ・ニ族の村々ではコセパ・ロゥ・タンヴェの儀礼が行われる。畑の中に竹で組んだ小さな祠を建て、そこに生米、蝋燭、お茶の葉、お酒などを供え、そこに向かって全員が座し、先頭の長老がまじないの言葉を唱える。ちょうど焼畑が終わって開墾の時期にあたり、山の神様に一年の豊作を祈る儀礼である。この儀礼は家族または親類の単位で行われる。
 キリスト教化されていないラフ・ニ族の人々は独自の伝統的な宗教を信仰している。一言で言えば、アニミズム、祖霊崇拝、シャーマニズムなどが混交した内容である。集落の高いところにはホイェと呼ばれる、寺のような神社のような建造物があり、シニ(ラフ・ニ族の聖日である新月と満月の日)になると村人たちがさまざまな供物を手に参拝する神聖な空間である。ここはトボー(祭司)やカソマ(巫女)と呼ばれる役職者がとりしきっている。
 ラフ・ニ族の宗教を仏教的と呼ぶには無理があるが、その儀礼の日程やスタイルには、タイ族の信仰する上座部仏教(小乗仏教)の影響が少なからず見られる。ミャンマーのシャン州ではラフ族とシャン族は同じ地域に居住しており、シャン族文化の影響を強く受けているからであろう。ホイェにおいて行われる儀礼には、以前にも紹介したセコ・シニ(4月のソンクラーンの時期に行われる砂の山の儀礼)などのように、タイ仏教の折々の法要や儀礼に対応するかのように実践されるものが多い。
 6月に行われるサマ・タン・ヴェ(「とうもろこしを供える」の意)もそのひとつである。これはタイの仏教行事のひとつカオ・パンサー(入安居)と同時期に行われる儀礼で「とうもろこしの祭り」とも呼ばれている。カオ・パンサーは寺で修行に入る僧侶たちがパンサー(修行期間の単位)に入るのを祝う行事であるが、ラフ族ではそういった意味合いはなく、雨期を迎えてさまざまな作物が収穫できたことを祝い、彼らの創造神グシャや先祖の霊に奉納する、収穫祭のニュアンスが強い。
ラフ・ニ族の農耕儀礼 サマ・タン・ヴェの日、夕方になると各家庭では、とうもろこし、さといも、しょうが、とうがん、野菜などを用意し、家庭内の少なくとも誰か一人(女性であることが多い)が村のすべての家々を巡回して、その収穫物を少量ずつ各家の祖霊が祭られた場所(テマライ)に供えていく。したがってこの儀礼を行うには少なからぬ量の作物が必要になるが、自分の家にもそれだけぶんの作物がほかの家から分配されるのである。作物を交換、分配するという行為によって自然の恵みをシェアしあうラフ族の共存の思想や価値観がここでも象徴的に示されている。すべての家庭に作物を届け終わると、最後はホイェに行き、同様に作物を神殿に奉納して帰ってくる。
 一方、10月のオーク・パンサー(出安居)に対応して行われるのが「ジャス・タン・ヴェ」(「新米を供える」の意)である。10月のタイ北部はちょうど陸稲の本格的な収穫の直前にあたり、新しい稲穂を刈り取って先祖の霊に供える。やりかたはサマ・タン・ヴェと同じく、米、とうもろこしのほか、この季節の収穫物であるさつまいも、かぼちゃ、タピオカなどを各家々に配って歩く。この儀礼が終わってしばらくすれば、長い雨期が明け、山の人々が楽しみにしている乾期がやってくるのだ。


(101号掲載)

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