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君は火の玉を見たか?

カテゴリー: 気まぐれ一発!コラム | 2007.12.06 Thursday

 

きまぐれ一発コラム110号
 ほぼ1年ぶりにビエンチャンを訪れた。いつもならラオス航空を利用するのだが、今回は旅の友Sさんの提案もあって、格安航空会社ノックエアーのチェンマイ〜ウドーンターニー便で行くことになった。料金はラオス航空の4分の1と激安だし、一度ぐらいは国境橋を越えてラオスに入国してみたかったからだ。事情通によれば、多数の応募者の中から選ばれたノックエアーのスッチーの容姿レベルはタイ航空以上とのことで、実はそれが理由だったりして…。
 ウドーンの空港からは国境までリムジンも出ているが、夕刻遅くにチェンマイを発つフライトなので無理することもなかろうと、ひとまずノーンカーイのホテル予約をした。ところが、その後、手配をしたツアー会社から「今のノーンカーイは特別料金で、先ほど申し上げた値段よりさらに高くなりますが…」と電話が入った。オークパンサー(出安居)の前日だから高いのか?と首を傾げつつも、それならと平常料金のウドーンのホテルに予約変更してもらった。
 そのウドーンのホテルの部屋に入ってテレビをつけたら、ちょうど夕方のニュースをやっていた。メコンの川岸にアナウンサーが立って、「今晩からもうノーンカーイのホテルは満室になっています。今年は果たしてバンファイパヤーナークが拝めるでしょうか? 皆さん、それが気がかりで明日の晩まで待てない様子です」とレポートしている。
 それでやっと特別料金の事情が飲み込めた。バンファイパヤーナークとは、毎年、陰暦11月15日(15夜の満月)のオークパンサーの日に限ってメコン川から上がる「火の玉」のことである。バンファイは祭りのときに火をつけて空へと放つ手製ロケット、パヤーナークはメコン川に棲むと信じられている龍の神様を意味する。この不思議な現象は、数年前に映画の題材にもなった。自然現象なのか、本当に龍神が火を吹いているのか、はたまたインチキか?と大論争になり、政府も本格的調査に乗り出す始末。そのおかげで、今やこの「火の玉祭り」はノーンカーイの一大観光イベントになっている。
 翌日は、午後になるとノーンカーイ周辺の道路が渋滞し始めるというので、早めにウドーンを出発して昼前に国境に着いた。ビエンチャンまでの移動を頼んだ車の運転手に「バンファイパヤーナークはラオス側でも出るのか?」と訊いてみると、「もちろん」との答えが返ってきた。狙いを定めたわけでもないのに、この日にビエンチャンに来ることになったのは、それこそ龍の神の思し召しかもしれない。せっかくの機会だからと、その運転手にホテルまで迎えに来てもらい「火の玉」見物を決行することにした。
 夕方の5時頃、Sさんと私、それに現地の友人たち4人を加えた総勢6人がワゴン車に乗り込み、ビエンチャンから約60kmも離れたハイパークグム村を目指す。1時間半ぐらい幹線道路を走った後、未舗装のデコボコ道に入り、土埃を上げながらしばらく進むと村に到着。岸まで歩いて行く途中には、焼き鳥などの屋台が並んでいて、縁日の夜店のような雰囲気だ。既にたくさんの見物客がゴザを敷いて川岸の場所を陣取っている。固唾を呑んで今か今かと「火の玉」の出現を待つといった緊迫感は微塵もなく、のんべんだらりと飲み食いしながらのピクニック気分、宴会ムードが充満している。
 じっと立って待っていてもしょうがないので、我々も焼き鳥屋の特設テーブルに腰掛け、何はともあれビアラーオを一杯ひっかけることにする。その気満々のSさんだけは、要領よく崖っぷちの特等席まで辿り着き、川面をずっと眺め続けている。川までの落差はかなりあるから、落っこちたら大変だ。確かに夜空には満月が浮かんでいるが、川から立ちのぼる水蒸気のためか、輪郭がぼんやりしている。
 ビールを飲みながら、地元情報誌を編集しているMさんに「火の玉」の真偽のほどを尋ねる。彼は今まで2回も見物に来ているのに、まだ見たことがないという。川のガスが燃えるという説もあるが、自然現象ならこの日だけというのは納得がいかない。かといって、インチキをしているわけでもなさそうだ。水蒸気の多い時間になると、蜃気楼で遠くの光、例えばオークパンサーの祭りの灯りなどが浮かび上がってくるようにみえると考えれば一応の理屈は通るものの、これといった確証に欠ける。
 そんな話をしているうちにも、何度か歓声が沸く。すぐ振り返って川のほうを見やるが、花火だったり、ローイクラトンの灯りだったり、ときには可愛い女の子が通り過ぎただけだったり…。もし本物の「火の玉」が上がったとしても、この人垣ではちゃんと確認することは難しい。
 やがて9時過ぎには歓声も少なくなり、見物客はぞろぞろと帰り始める。結局、我々のなかでの目撃者はSさんとラオス人の2人だけ。「水中から火の玉が上がってきたから、明らかに花火とは違う。白、赤、黄の光の尾のようなものも見えたけど、10秒ぐらいで消えてしまった」 Sさんのリアルな話を聞いていると、ビアラーオのほろ酔い効果も手伝って、見てはいないのになんとなく見たような気になってきた。逆に本当に見てしまったら、つまらないような…というのは負け惜しみに過ぎないか。とりあえず、今回は曖昧模糊とした「火の玉」で満足することにしよう。


(110号掲載)

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