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ヤオ族の歌垣

カテゴリー: タイの山岳民族(三輪隆) | 2007.12.07 Friday

 

山岳民族111a
 前回紹介したアカ族に続いて、チェンマイ山岳民族博物館シニアボランティアの長澤さんと、チェンラーイ県ホイメーサイ村でヤオ族の歌垣をビデオに収録した。
 ヤオ族においても伝統文化の継承者は年々高齢化しており、歌垣の堪能な若い人を探すのは難しい。さくら寮スタッフのカンポン君の親戚に手配を頼んで、なんとか二組の中年男女に出演をお願いすることができた。
 しかし、もう孫もいるような中年男女が激しい恋の歌というのも、あまりにも淫靡(?)というか不自然なので、彼らの息子や娘の縁談をもちかけあうという設定にしようということになった。そこで、残念ながら歌は歌えないけれど、とても美しい若い娘さんが特別出演してくれることになった。
山岳民族111b
歌垣の内容は、二人の中年男とその息子の一団が、二人の中年女とその娘、それに彼女の幼い弟の一団に山の畑で偶然出会い、親しく話しているうちに互いの息子と娘の縁談が持ち上がるというストーリーである。
 以下はその訳の一部である。訳文は短いが実際の歌垣はかなり長い。それはヤオ族の場合、複数の人々が歌う場合、ある一節を歌い終えると、その一節の後半部分をフーガのように繰り返して歌う作法があるからである。一人の歌い手が歌った言葉を反復することによって、他の人も合唱できるようにするのである。

男「私たちがここを通りかかったとき、あなた方がこの畑で仕事をしているのに出会いました。あなたがたは何人で働いていますか? どうか、ちょっとお話させてください」
女「私たちは4人で働いています。あなたがたはどなたですか。どのようにしてここにたどり着き、私たちに話しかけたのですか?」
男「あなたがたはそうやって(女だけで)仕事していて寂しくありませんか? 私たちもこうして歩いていて心寂しく感じていたのです」
女「私たちも寂しい思いでした。もしお邪魔でなかったら、こちらへきて一緒にお話しませんか」
男「私たちは向こうの山で仕事をしていて、こちら側にきれいな花を見つけてやってきたのです。この花には持ち主がいるのかどうかわかりません。この花を摘みたいのですが、あとで問題が生じることを恐れます」
女「(あなた方にお会いできたのは)生まれてこのかた、そして先祖代々の徳が今ここに結実したかのようです。もし、おいやでなかったら、こちらにいらっしゃいな。袖振り合うも多生の縁、一緒に語り合いましょう」
男「日も高くなり、もうお昼ご飯時だ。まだお昼ご飯も食べていないし、お腹が減ってこれ以上歩くこともできません。もしご飯をお持ちでしたら、一緒にいただくことはできないでしょうか」
女「どうぞ、ここへきて一緒にお昼ご飯を食べましょう」
女の友人「(若い二人をさして)このふたりはとてもお似合いね」
男「あなたの娘さんの生まれ年、誕生日をおしえてくださいませんか。(ヤオ族では結婚を前提とした場合、相性を占うために相手の生年月日を調べる)」
女「もしおいやでなかったら、娘をもらってあげてくださいな」
男の友人「こうしてみると二人はとてもお似合いのカップルだ」
女の友人「本当にお似合いだこと」
男「もう少ししたら、二人は結婚して、同じひとつの一族になるのですね」
女「あなたがたさえよかったら、私たちは喜んで娘をあげますよ。でも私たちはとても貧しいですから、あなたがたはもらいたがらないのではと恐れます」
男「娘さんのお名前は何ですか?」
女「私の娘の名前ですか? ホンニーです」
男 「私どもの息子は他人の悪口を言う(ホンニー)は得意ではありません。(ホンニーという名前はヤオ語で「人の悪口をいう」という言葉に発音が近いため、二つの意味をかけたジョークである)
(みなで笑う)
女「私たちの娘の名前はホンニー、もし気に入っていただけたなら、どうぞプロポーズに来てください。ご縁があるのですから、いつでも娘を嫁がせます」
男「もう少ししたらプロポーズに来ます」
女「ただ、息子さんにはもう恋人がいるのではないかと心配です」
男「私の息子にはまだ恋人はいませんよ」
女「もう決まった恋人がいるのなら、私たちの娘を騙したり、もてあそぶようなことはやめてくださいね」
男の友人「こうしましょう。(娘の弟である)この小さな男の子は、新郎の付き人になりますよ。でもこの男の子には(結婚していないので)まだ新婦の友人はいませんから、この青年にはもう少ししたら、新婦の友人を探さなければなりません」

 最後の一節はわかりにくいかもしれないが、ヤオ族独特のやや複雑なウィットをこめた言い回しである。ヤオ族は結婚式のとき、必ず新郎は男の、新婦は独身の娘さんを付き人としてつけなければならない。
 女性を花にたとえたり、かけことばを使ったり、高度な比喩やジョークを交えたり、高度な言語文化を持つヤオ族ならではの歌垣の内容だった。


(111号掲載)

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